夢小説 | ナノ




02:同室者と孫兵

みょうじなまえは伊賀崎孫兵を好ましく思っている。

一年から今までずっと同室であるが、生物委員会であるためか面倒見がよく、よく集団行動から外れてしまうなまえを引っ張って行ってくれる。
なまえはよく『ぼーっとしている』やら『集中力が足りない』などと言われるが、仕方のないことだと思う。

なまえにとって世界は賑やか過ぎた。


しきりに耳に届く囁き声。
真実なのか嘘なのかも分からない噂。
おいでおいでと呼ぶ声。
目の前をうろちょろとする小人。
図鑑には載っていない虫。
目を凝らしても顔の見えない人影。
至る所に生えている白い腕。


これらはどうやらなまえ以外には視えないらしい。
視えないがために本人たちは知らず知らずのうちにそういったモノを蹴散らしたり踏みつけたりしている。ついついそれを目で追ってしまうなまえはなんだかんだでお人よしである。
視えて聴こえるせいで度々不審な行動を取ってしまうなまえを気味悪がらずに一緒にいてくれる孫兵に好意以外抱きようがないのだ。
毒虫やジュンコを含む蛇を部屋に連れ込むことを嫌がる人間は多いが、なまえにとってそれは大した問題ではない。
なまえの視る物の中には目を覆いたくなるようなグロテスクなモノも少なくないし、命にかかわるような危険なモノだっている。それに比べれば毒虫など可愛いものだ。



「なまえ!」
「孫兵。どうしたの?」
「ジュンコを見なかったか!?またいなくなってしまって…」


ジュンコ。
口の中で呟くと突然頭の中に光景が浮かんでくる。
大きな木の太い枝でお昼寝をするジュンコ。その木のそばには見覚えのある建物がある。


「多分、こっち」
「一緒に探してくれるのか?」
「うん。行こ」
「ありがとう」


ジュンコ!心配したよ!
感動の再会を果たしている孫兵を見てニコニコしていると


「相変わらずなまえは勘がいいな。ありがとう。また頼むよ」


ジュンコを首に絡ませながら微笑む孫兵に「任せて!」と微笑み返した。
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