夢小説 | ナノ




06:天女と用具

食満先輩と私、作兵衛の三人で屋根の修繕をしていると、善法寺先輩が通りかかった。
と、同時に先輩が梯子に足を引っ掛け転倒。さらに転倒先には喜八郎の掘った落とし穴があったようですっぽりと落ちてしまった。
それだけでは終わらずに引っかかった梯子が倒れて穴に蓋をされる。これでは自力で出ることは敵わないだろう。
あまりの不運さに絶句する作兵衛。食満先輩は今手を離せないので私がが助けに降りることになった。梯子は倒されてしまったがこのくらいの高さなら余裕だ。よっと飛び降り、梯子を退かそうとした時、天女様が現れた。


「ちょっと、アンタ」
「はい?私ですか?…えっと、何か御用ですか?」


まさか私に話かけるとは思わなかった。何か用があるのだろうか。首を傾げると『腹立つ!』って顔された。解せぬ。


「アンタに言っておきたいことがあるの」
「はあ…何でしょう?」
「私は天女様なの」
「存じておりますが…」
「アンタじゃなくて私がみんなにちやほやされるの。どうやらアンタにも逆ハー補正がついてるみたいだけど、私の補正の方が強いんだから!すぐにみんな私の虜よ!」
「はあ」
「アンタが傍観主だってことは分かってるんだから!調子に乗らないでよね!」
「はあどうもすみません」


ギャクハーホセイ?ボウカンシュ?何それ。漢字変換も出来ない。
よく分からないからとりあえず謝っておく。クレーム処理の基本である。でも天女様は勝ち誇ったように笑みを浮かべたから間違った対応だったかもしれない。


「ねえ、アンタ。とっても綺麗ね」
「え?はあ…どうも」
「まるで女の子みたい」
「…よく言われます」


唐突に私の顔を褒め始める。その意図が分からず困惑するが、とりあえず話を勧めて貰う為に相槌を打つ。


「そう。そうね。こんなに男の子ばっかりだと目立つでしょう、その顔」
「そうでもないですよ。四年はアイドル学年と呼ばれるくらい濃い面子が揃ってますから」
「体つきも細くて、背もそこまで高くない。小柄で腕も細くて、本当に女の子みたいね?」
「……まあ、おかげで女装の成績は良いですよ」
「そうでしょうね。だってアンタは本物の女なんだから」
「は?」


やけに『女っぽい』ことに焦点を当てるなと思っていたら、私が女だと?
いやいやいや。私男ですから。何年忍たまやってると思うんですか。


「男装してまで忍たまになりたいなんて、どんな事情があるのかしら。詳しく聞きたいわね」
「いえ、あの、私は正真正銘の男です」
「隠さなくていいの。もう分かってるから。無駄よ」
「えー…」
「どうしてもっていうなら、そう。今ここで脱いで見せなさいよ」
「はっ!?いや、それは…」
「出来ないの?でしょうね、だってアンタは女だもの。見られたら困るのよね?」
「…………」


女人の前で脱ぐなんて出来るか!
そこらへんの女ならともかく、たくさんの先輩方から懸想されている天女様の前で脱ぐとか自殺行為だわ。
そして正真正銘の変態行為だわ。そういうのは五年ろ組の鉢屋先輩に頼んでください。


「別にね、バラすつもりはないのよ。ただちょっと大人しくしててくれれば、ね」
「大人しく…?」
「そう。簡単でしょ?みんなと一緒に卒業したいよね?だったら。私の邪魔しないで、大人しくしてて?」
「邪魔、といいますと」
「決まってるじゃない。私は上級生みんなに好かれたいの。ちやほやされたいの。大事にされたいの。お姫様みたいにされたいの!だからアンタが滝や三木をそそのかしたり三郎や喜八郎を連れていくのが我慢ならないのよ!」
「…そんなこと言われましても、私は別に」
「何もしてないって?フン、よく言うわ。あんなに必死に媚といて。何が「授業行くよ」よ!独りでさっさと行きなさいよ」
「はあ…」
「男装の事、バレたらきっと退学よね。いい?くれぐれも邪魔しないでよね!」


睨みつけてから早足でその場を去る天女様。
語るに落ちるとまでは言わないが、随分とペラペラ喋ってくれたものだ。
私は別に好かれようと思って行動している訳ではないが、どうやら天女様は私の行動がお気に召さないらしい。
嫌われてるかもとは思っていたが、まさかそんな浅ましい理由だったとは思いもしなかった。
それにしても滝や三木から聞く天女様とは大きくかけ離れた言動だった。お淑やかで純情で穢れのない美しい天女様が聞いてあきれる。

ごそごそと足元で音がした。そういえば穴に落ちた善法寺先輩を救出するために降りたんだった。
穴を覗き込むと梯子の隙間から先輩と目があった。


「……善法寺先輩」
「な、なにっ?」
「…私って女でしたっけ?」


あんまり天女様が女女言うから自信がなくなってきた。
ドスンと大きな音がした。どうやら穴の中で善法寺先輩がひっくり返ったらしい。犬神家か。
そして同時に背後からも大きな音。食満先輩が屋根から落下したらしい。お二人ともリアクションに命張りすぎだと思う。

とりあえず地面に転がっている梯子を起こして屋根に立てる。梯子の下から出てきたタコ壷を覗き込み善法寺先輩の安否を確認。怪我もなく元気そうだ。
どうぞと手を差し出すとありがとうと捕まり、一瞬ぐっと引かれるが踏ん張る。手慣れた様子で出てきた善法寺先輩。その表情はなんとも微妙そうだ。

先程屋根から決死のダイブをした食満先輩は立ち上がり私の両肩をガッと掴んだ。善法寺先輩も同じく肩を掴んでくる。
ちょ、なに?私の肩の上で手と手を握り合わないで。余所でして。


「なまえ…!しっかりしろ!お前は確かに学年一の女顔だが、立派な男だろう!」
「そうでした」
「確かにみょうじは女も顔負けなくらい可愛いけど、怪我の処置の時に半裸になったことあるでしょ?男の子でしょ?」
「そうでしたあります」
「お前はそこらへんの女より綺麗で良いにおいもするが、胸はないしちゃんと性」
「先輩セクハラ」


パアンと食満先輩に平手打ちをする。ノックバックした食満先輩を善法寺先輩が蹴り倒す。何このコンボ。打ち合わせもしてないのに息ぴったり。
錯乱状態だった先輩はどうやら正気を取り戻したようだった。「すまん」と謝る食満先輩に「いいえ自分こそ」と謝り、ちゃんと梯子をつかって降りてきた作兵衛から道具を受け取る。屋根の修繕は終わっていたらしい。


「それにしても、天女様は一体どうしてあんなことを言ったんですかね?」
「不思議だね作兵衛。天女様は頭の中お花畑なのかもね。めでたいね」
「なまえ!棘が出てるぞ!」
「まあまあ留さん。みょうじの気持ちも分からなくないよ。突然あんなこと言われちゃったらねえ…」


百年の恋も冷めるよね。
そう呟いた善法寺先輩の目は冷え切っていた。忍の目だ。六年生こわい。


「どうやら調べてみる必要がありそうだな」


可愛い後輩に何かあったらたまらない。食満先輩の思考が手を取るように分かる。

――どうやら貴方が悲観する程、先輩方は腐っていないようですよ、鉢屋先輩。
不安そうに見上げる作兵衛に抱きつきながら、にっこりと笑みを浮かべた。




半分演技で半分素です。
触らぬ神になんとやら。
[] | [] | []