夢小説 | ナノ




04:天女と視線

腑抜けてしまった上級生たちだけど、さすがに授業にはきちんと出ている模様。サボりには先生方からありがたーいお説教が待っているだろう。
ただ委員会はそうもいかないらしい。全然来ない訳じゃあないけれど、始めと終わりに顔出しする程度。まあ指示は出して行ってくれるからそこまで困ることはないんだけど。


「三木ー!授業行くよ!」


相も変わらず天女様にべったりの三木に呼びかけてあげる私ってなんて優しいんだろう。やはり三年間苦楽を共にしてきた友達だしね。同室ならなおさら。
「あっ、今行く!」とこっちを向いて返事をした三木は天女様に何やら話かけ、笑顔で手を振ってこっちに走ってきた。


「なまえ、お待たせ!」
「早く行こー」
「ああ、」
「なまえ!何故私にも呼び掛けない!」
「だって滝はい組だし。私ろ組だもん」
「はんっ!所詮お前となまえの絆なんてそんなものだ自惚れ屋の滝夜叉丸!私となまえの堅い絆には遠く及ぶまい!」
「何をぉ!?この滝夜叉丸が三木エ門なんぞに劣るはずがない!大体お前は…ぐだぐだぐだ」


モウハヤクイコウヨー。
もはや恒例と言える程繰り返したパターンに辟易していると、天女様の周りでわちゃわちゃしていた他の上級生も「おーそろそろ授業か」「名残惜しいけど行くかー」と言っている。どうやら滝と三木の喧嘩が始まるとタイムミリットとなっているらしい。
アラーム代わりにされてることに何とも言えない気持ちになった私はぼーっと二人に喧嘩を観察する。終わりが見えない。果てしない。滝も三木もよくもまあそうべらべらと口が回るものだ。
そろそろ止めようかと考えていると視線を感じた。殺気と言うにはお粗末な、しかし紛れもない敵意。
不自然にならないようにそっと視線の方向を見ると、天女様だった。

おやまあ。私は天女様に何かしたかしら。
考えても思い当たらない。首を傾げて考えをリセット。そろそろ移動しないと本気で間に合わない。


「ほら二人とも行くよ。これ以上喧嘩するなら置いてっちゃうからね」
「あっ、待てなまえ!」
「本当に置いて行く奴があるか!」


スタスタと食堂を出ると慌てて追いかけてくる二つの気配。追い付いてきた二人は不思議そうに言った。


「なあ、さっき天女様がなまえのこと見てたけど…」
「天女様と何かあったのか?」
「ないと思うけど。そもそも私、天女様とお話したのは自己紹介の一度きりだよ」
「ではあれだな!私がなまえと親しげにしていたので天女様はきっとなまえに嫉妬してしまったのだろう!ああ、あんなに清らかで優しい天女様に嫉妬させてしまうなんて…美しさも時には罪だな!」
「何を言う馬鹿夜叉丸!あれはどう見ても私となまえの仲を嫉妬していたに決まっている!組も同じで部屋も同室で仲の良い私達だ。天女様が嫉妬してしまうのも無理はない」


またぎゃあぎゃあ言い始めた二人は放っておくことにした。何回繰り返すねん。いちいち止めてられるか。
後ろに二つ、六年生らしき気配。そのうちの一つはよく知ったものなので、もうひとつは彼の同室だろう。歩みを止めぬまま首だけで振り返る。


「なまえ」
「食満先輩に善法寺先輩。こんにちは」
「こんにちは。さっきの天女様のことだけど…」
「ああ。丁度今そのことを話していたのですが、心当たりがなくて」
「お前天女様とあんまり接点ないもんな。ま、お前の事だから心配要らないとは思うが、一応用心しとけよ」
「馬鹿な奴らが変な事しないとも限らないからね」
「おやまあ物騒なこと。だったら食満先輩、可愛い後輩を守るために今日の委員会は最後まで出席してくださいな。食満先輩がお側にいてくだされば安心です」
「ははっ、分かった分かった」
「約束ですよ?作も一年達も寂しがっているんですからね」
「ああ、約束だ」
「なまえは甘え上手だなあ」


戯言のように約束を取り付けて、笑って解散。
言質は取った。これで約束を守らないなら報復するまで。
笑顔の裏で恐ろしい事を考えながら教室まで足を進めた。




先輩たちは逆ハー補正にかかっているけど、正気でない訳じゃないのです。
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