夢小説 | ナノ




01:孫兵と同室者

伊賀崎孫兵はみょうじなまえを好ましく思っている。

毒を持つ虫や爬虫類を部屋に連れ込み四六時中ジュンコと時を共にする孫兵を嫌悪することなく三年間同室でいてくれるなまえに好意以外抱くはずがない。
出来れば卒業までずっと同室でいたいとさえ思っている。一人部屋が貰えるなら話は別だけれど。

そんなみょうじなまえはどんな奴なのか、と聞かれれば大抵の人間が「少し変わった人」と答えるだろう。

例えば朝。生物委員の孫兵は朝の餌やりをするため早起きである。生物委員は委員長代理の竹谷と孫兵を除くと一年生しか残らない。
また来年には竹谷が最上級生となり、実習や任務などで不在の時間が増える。その時に委員会を動かすのは孫兵だ。その為に孫兵は毎日餌やりに参加する。竹谷がいれば竹谷と、当番の一年と。
なまえは孫兵が起きる前に起床していることが多い。
習慣なのかと思ったがそれにしては起きる時間がまちまちだし、起床直後の不機嫌そうな声の理由が分からない。
「う゛ー…」と唸りながら起きるその様はまるで『誰かに起こされている』ように見えるが、部屋には孫兵とジュンコしかいない。

例えば散漫すぎる集中力。なまえはいつもぼんやりとどこかを見ている。その視線の先を追っても特に何もないことが多い。
気配にも疎く、声をかけても気がつかないことも多い。忍者としての将来が心配になる。

例えば勘の良さ。クジでは絶対にはずれをひかないし、くのたまお手製ロシアンルーレット(強制イベント)をしても最後まで勝つのはなまえである。
また失せ物探しにも長けていて富松がよく泣きついている。



「あっ」
「どうかしたのか?」
「孫兵、毒虫が脱走してるみたいだよ」
「本当か!?竹谷先輩に伝えなきゃ…」
「竹谷先輩ならさっき職員室で見たよ」
「そうか、ありがとう。…それにしてもよく脱走が分かったな」
「噛まれたから」
「!?」
「結構いたい」
「!!?」



でも一匹確保だね、と笑うなまえの頭をぱしんとはたいて保健室に連れて行く孫兵は不思議でどこか浮世離れしたこの友人をそれでも好ましく思っている。
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