夢小説 | ナノ




番外編04:手当て

「だからね、どうして素手で捕まえちゃうの。虫とり網を使えばいいでしょ」
「でも、孫兵は手でちゃんと捕まえられるのよ」
「それは孫兵だからでしょ。奴はもはやプロ。毒虫のプロ。なまえは?」
「プロじゃない…」
「でしょう。だからプロじゃないなまえはちゃんと道具を使って捕まえようね?」
「練習すればプロになれる?」
「僕の話聞いてる? ねえ聞いてる?」
「僕も毒虫のプロになりたい…」
「こんだけ噛まれてるのに何で触りたがるんだか…」


保健室の片隅で、逃げ出した毒虫を素手で鷲掴みにしたなまえが数馬に怒られながら治療されていた。微妙に噛み合わない会話に数馬は心の底から溜息をついた。
このままでは一向に理解してもらえないだろう。少し方向性を変えて攻めてみることにした。


「なまえ、もしも僕が毒虫に噛まれたらどう思う?」
「やだ。数馬が苦しいのは、駄目!」
「ありがとう。僕もね、同じ気持ちだよ。なまえが毒虫に噛まれて痛いのも、毒で苦しくなるのも嫌だよ。だからもう、素手で捕まえようなんてしないでね」
「うん、がんばる……」
「……うーん、まあここで妥協しておくか…」


確実な返事はもらえなかったものの、各所に心配をかけているということは伝わったみたいなので良しとする。実際の所、なまえはわざとというよりつい、手で毒虫を確保しているらしかった。「あ、毒虫。逃げちゃう!」で、素手でパシッと。せめて手拭いを間に挟むだけでも大分違うと思うのだが。
丁度治療も終わり、包帯でぐるぐる巻きになった左手をそっと包みこんだ。


「なまえの傷が早く治りますように」
「おまじない?」
「おまじない。なまえは怪我ばっかりするから。痕が残りませんように」


その名の通り、自分の手をなまえの左手に当てて手当てする数馬。こうされるとなまえは妙に嬉しそうな顔をするのでもしかしたら逆効果なのかもしれないが、これ以上なまえが無茶をしませんように。


「じゃあ、僕もおまじないするね」
「え?」


にっこり笑ったなまえは、数馬の右手を取って同じように包みこんだ。


「数馬が怪我しませんように。数馬が痛いのを避けられますように」
「なまえがおまじないすると本当に効きそうだね」


ありがとう、どういたしまして。
手を取り合って笑いあう二人の空気はどこまでも優しかった。








その後数日間、右手で体を支えて顔面からの転倒を回避したり、右手に持っていた荷物を落として拾おうとしゃがんだその上を小平太のバレーボールが通過したりと、右手によって数々の不運を回避していったのだがそれはまた別のお話。
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