夢小説 | ナノ




20:かごめかごめ


かーごめかごめ
かーごのなーかのとーりぃーは
いーつーいーつーでーやぁる
よーあーけーのばーんーにー
つーるとかーめがすーべぇったー
うしろのしょーめん

だ  あ  れ  ?














「分かった!庄ちゃんでしょ!」
「あたりー!」
「すごいな三治郎は!」
「さすが山伏の息子だよね〜」
「えへへ!僕、かごめかごめ得意なんだー!」
「えーまぐれでしょ?」
「もう一回やってよ!」
「任せて!」


「うしろのしょーめんだーあれ?」
「兵太夫!」


わーホントだ。
本当だすごいね。

クス クス
  くすくす

もう一回やって
 ねえ、もう一回




「うしろのしょーめんだーあれ?」
「きり丸!」


もう一回
 もう一回やって



「うしろのしょーめんだーあれ?」
「しんべヱ!」


すごーい
 す ご  い ね

三  治郎 す ごい  ね


もう一回  や っ て ?



「うしろのしょーめんだーあれ?」
「伊助!」


あたり
     あたり

 だ い せ い か い

も  う いっかい や っ  て よ




「うしろのしょーめんだーあれ?」
「…虎若?」












はぁずぅれぇえええええ



















「―――――〜〜〜ッ!!」


思わず体を起こすと、そこは見慣れた自分の部屋だった。
ひきつりそうになる呼吸をなんとかこなしながら、自分が布団の中にいることを確認する。


「ゆめ…」


それは紛うことなく悪夢だった。
なんてひどいゆめ。汗すごぉい…。
呼吸が落ち着くにつれて気分も落ち着いてきた。朝から憂鬱になりながらも、着替えるために温かい布団から這い出た。














「じゃあ今日はここまで!」


土井先生の号令の後に礼をして、解放感に浸る。
何して遊ぶ?と相談を始めるクラスメイトを尻目に、掃除当番の三治郎は箒を手に取った。


「三治郎と兵太夫、掃除当番なの?」
「そうだよー」
「俺達外で遊ぶから、終わったら来いよ!」
「分かった、ありがとー!」


パラパラと教室から駆けていく同級生を目で追いながら、三治郎は兵太夫と共に掃除に励んだ。
今日はあの授業が面白かったね、土井先生の胃、大丈夫かなー?
お喋りに花を咲かせながらの掃除は少々時間がかかったが終了し、約束していた通りにグラウンドに向かう。


「そういえばさ、今朝すごく顔色悪かったけどもう大丈夫なの?」
「え?あーうん、平気平気!ちょっと変な夢みちゃってさ」
「変な夢?」


どんなの?と興味津津に聞いてくる兵太夫に、三治郎は返答に困ってしまった。
今朝の夢の内容はあまり人に言いたくないものであったが、悪夢は人に話すと良いとも言うし。話している内に笑い話になるかもしれない。
そう思った三治郎は歩きながら兵太夫に話始めた。


「へー、皆でかごめかごめねえ…。結局最後に後ろに立ってたのは誰だったの?」
「あぁ、それは…」
「おーい!三治郎ー、兵太夫ー!!」


こっちこっち、と手を振るきり丸。話ながら歩いている内にいつの間にか目的地に到着していたようだ。
周りにはしんべヱと庄左ヱ門、伊助がいた。


「何だか珍しい面子だね。乱太郎は?」
「さっきまで一緒だったんだけど、保健室の包帯が足りないらしくて、委員会に行っちゃったよ」
「それはお気の毒だね…」
「早めに終わったら帰って来るって言ってたけど」
「それは無理でしょー」
「だな。なんてったって、不運委員会だもんな」


笑いに包まれる中、ふと、三治郎は思った。何だか夢に出てきた人ばかり集まっているな、と。
まあでも、夢には虎若が出てきたけどここにはいないし!
気にしすぎ気にしすぎ、と自身に言い聞かせるように繰り返す。そうこうしている内に会話の流れは遊ぶ内容に移って行った。


「何して遊ぶ?」
「うーん…」
「かけっことかどう?」
「それじゃあ三治郎が一人勝ちして面白くないじゃん」
「えーじゃあ…」


『じゃあ、かごめかごめとかどう?』


「かごめかごめ?」
「あーいいかもね」
「何か久しぶりにするなー」
「意外としないもんね、かごめかごめ」


三治郎が思いもよらぬ提案に固まっている間に、既に皆の気持ちはかごめかごめに集まっていた。
え、うそ、やるの? なんかやだな…。
違う遊びを提案しよう。かけっこが駄目ならだるまさんが転んだとかでいいじゃない!そうそう、そうしよう。
わいわい騒ぐ皆に三治郎が提案しようとした時、


「俺も混ぜてー!」
「あ、虎若ー」
「筋トレはもういいの?」
「山田先生にやりすぎはよくないって言われたからやることなくって」
「部屋を掃除したら?」
「伊助こわー…」


虎若が来た。
いや、別に虎若のことは嫌いじゃないしむしろ良い奴だとは思ってるけど今日はあんまり会いたくなかった。
だって夢の結末があんなんだったし。しかも虎若が来ちゃったから夢と全く同じ面子だし、


『これからかごめかごめするんだよ!』
「へー!やろうやろう!三治郎も早く!」
「あ、うん…」


虎若の乱入によって完全にタイミングを逃してしまった三治郎は渋々輪に加わった。
最初の鬼を決めよう、ジャンケンね!さーいしょはぐー!じゃーんけーん、


「…僕が鬼……?」


一人負けだった。
…なんでこんな時ばっかり!
がっくりと肩を落とす三治郎に、大袈裟だと皆が笑う。夢の話を聞いていた兵太夫だけは少し表情が硬かった。


「それじゃあ、三治郎、目隠ししてね」





かーごめかごめ
かーごのなーかのとーりぃーは
いーつーいーつーでーやぁる
よーあーけーのばーんーにー
つーるとかーめがすーべぇったー
うしろのしょーめん

だ  あ  れ  ?






「…庄ちゃん?」


無意識に口から言葉がこぼれ落ちた。
言い終えてから三治郎は口を押さえた。何で。今、別に何も言おうとしてなかったのに。
茫然とする三治郎を置いて、周囲は盛り上がりを見せていた。
「あたりー!」「すごいな三治郎は!」「さすが山伏の息子だよね〜」「えへへ!僕、かごめかごめ得意なんだー!」「えーまぐれでしょ?」『もう一回やってよ!』「任せて!」


(任せて?
 いま、ぼく、任せてって言ったの?)


「うしろのしょーめんだーあれ?」
「兵太夫!」


わーホントだ。
本当だすごいね。

クス クス
  くすくす

もう一回やって
 ねえ、もう一回




(いやだ…)



「うしろのしょーめんだーあれ?」
「きり丸!」


もう一回
 もう一回やって




(なんで、勝手に、)



「うしろのしょーめんだーあれ?」
「しんべヱ!」


すごーい
 す ご  い ね

三  治郎 す ごい  ね


もう一回  や っ て ?




(もうやりたくない!だって、これじゃあ、夢と同じ…!)



「うしろのしょーめんだーあれ?」
「伊助!」


あたり
     あたり

 だ い せ い か い

も  う いっかい や っ  て よ




(だめだめだめだめだめやだよやだやだ、だれかたすけて)




「うしろのしょーめんだーあれ?」
「…虎若?」



錆びた絡繰り人形のように、ゆっくりと、顔を後ろに動かす。
にこにこと笑う級友が視界に入り、


そして、




(夢だと、このあと、


 このあと、振り返ると、


  真っ赤に充血した
 

  きな  目玉 が )










「はっずれー!!」
「正解は、みょうじ先輩でしたー!」


「ぁ…みょうじ…せんぱい……?」


そこにいたのは、巨大な目玉などではなく。
萌黄色の衣に身を包んだなまえだった。
にこにこと周りにお花が咲いているかのようななまえの雰囲気に、三治郎は一気に体の力が抜けてしまった。
ぺたん、と座り込む三治郎に不思議そうな視線が集まるが、三治郎には取り繕う余裕などなかった。そんな三治郎に手を伸ばしながら、「ごめんね、」となまえは言った。


「保健室で数馬のお手伝いしてて、乱太郎と一緒に出てきたんだけど。
・・・
みんなが楽しそうだからつい混ざっちゃった。びっくりさせちゃってごめんね?」
「あ…いえ…」
「みょうじ先輩も一緒に遊びましょー!」
「かごめかごめしますー?」
「かごめかごめはしませんー!今からするのはかくれんぼです。隠れちゃった左門と三之助とジュンコを探しましょー!」
「ええええええええ」


文句を言いながらも探し始めた友人達に何となく後ろから着いて行くと、兵太夫がスッと横に並んだ。兵太夫は心配そうな表情で話しかけた。


「三治郎、大丈夫?なんか、様子変だったけど…」
「大丈夫…じゃ、なかったかも…」


だって、夢と丸っきり同じだった。
もし、あのままみょうじ先輩が来なくて、振り返っていたら。
振りかえった先に、夢と同じように目玉があったとしたら。


「何かね、みんなもちょっと変だったんだよね。やたら楽しそうに笑っちゃってさ。もう一回、もう一回!って。あんだけ嫌がってた三治郎もずっとノリノリでやり続けるから僕、びっくりしちゃった。何度も『もうやめよう』って言おうと思ったんだけど、何故か声が出なくて。でも、みょうじ先輩が急に僕と虎若の隣に割り込んできてさ。そしたらみんなの雰囲気が元に戻ったような感じがしたんだよね」


あの時、三治郎は自身に起こったことに頭がいっぱいで気付かなかったが、言われてみれば確かにそうだった。
意思に反して飛び出す言葉。それに同調する周囲。張り付けたような笑顔は、今思いだすと背筋が凍りそうなくらい白々しかった。






「それとさ、僕、思ったんだけど。最初にかごめかごめしようって言い出したの、誰だっけ?」






三治郎は、何も答えられなかった。
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