夢小説 | ナノ




12:誘う声

「あれ?ここ、どこだ?」


なまえに鈴を貰い、別れた後。
迷子縄を引っ張られながら走り始めた三之助だったが、気がつくと周りには誰もいなかった。
とりあえず切れてしまった迷子縄を腰から外す。鈴を繋ぐ紐と縄があたり、チリンチリンと音が鳴る。
さーてどうするかと周囲を見渡すと、


「あっ、せんぱああぁぁぁあいっ!!」


やっと見つけた!と息を切らせながら三之助の腕を取る。もう逃がすまいと思ってか結構な力だった。


「もう、先輩どこに行ってるんですか!みんな探してますよ!」
「ごめんごめん。で、ここどこか分かる?」
「先輩じゃないんですから分かりますよ!こっちです!」


憤慨した様子でぐいぐい引っ張って歩いて行く。大人しく従って歩く三之助の腰で、鈴が不規則に音をたてた。










そういえばなまえのわらしべ長者はどうなっただろう。椿の花を誰かと交換出来ただろうか?
手を引かれながら、三之助はとりとめのないことを考えていた。自分のせいでなまえのわらしべが終わってしまったら申し訳ない。
ふと視線を上げると思いっきり獣道を歩いていることに気がついた。「こんな道通ったっけ?」と首を傾げる。もしかして迷ったのだろうか。しかしながら三之助の記憶は道に影響する事柄には微塵も当てにならないと言われているので自信はなかった。


「なあ、ホントにこっちであってる?」
「あってますよ。もうすぐ合流出来ますから」
「マジか」
「マジです」


そっかーと適当に返事をしていると、急にぐっと腕を掴む力が強くなった。


「あっ、ほら!もう着きますよ!」
「えっ、ちょっ」
「先輩早く早く!」
「わ、分かったから、もう少しゆっくり……あっ」
「ほら、みんないましたよ!」


本当だ。全員そろっている。
はやくはやくと急かす声に、歩みを強める。
合流するまで、あと少しだ。あと十数歩。もう、合流する、その時。



 チ リ ン  チリン チリン…



なまえから貰った鈴が、地面に落ちてしまった。
踏み出した足を慌てて踏ん張り、立ち止った。その拍子に今まで腕を引っ張っていた手がするりと外れてしまった。
しかし、そんなことにも構わず三之助は地面に膝をつき、落ちてしまった鈴を拾う。
ぐるりと全体を確認し、振ってみる。チリンチリンと音が鳴る。

よかった、どこも壊れていないみたいだ。
せっかくなまえがくれたのだ。壊すなんてことしたくなかった。紐は切れてしまったが、付け替えれば大丈夫だろう。
安心したところで、手を振り払う形になってしまったことを思い出した。


「悪い、これ落としちゃって…」
「やっと見つけたぞ三之助!!!」


顔を上げようとした時、背後から怒鳴り声が聞こえた。
そのうるささに顔をしかめて振り向くと、そこにはゼーハーと荒い息を繰り返す滝夜叉丸がいた。


「このっ…バカ之助が!毎回毎回迷子になりおって!挙句の果てにはこんな沼の前で何をしているんだ?」
「は?」

何言ってんだ、と三之助が顔を上げると、目の前に広がるのは、


「沼…?」


体に悪そうな色をした沼だった。そこそこ大きいそれは三之助が座り込んでいる場所の、一歩前から始まっていた。


「え?…え?何で?」


だってついさっきまで、目の前に全員いたのに。
困惑する三之助だったが、滝夜叉丸が腕を掴んだがために立ち上がった。


「滝夜叉丸…先輩、さっきまで他のみんなとあっちにいませんでした?」
「は?あっちは沼ではないか!何を言ってるんだお前は。もう日が暮れるから七松先輩は四郎兵衛と金吾を連れて先に学園に帰ったぞ。ほら、手を繋げ。私達も早く帰るぞ」
「……………はーい」


滝夜叉丸に腕を引かれながら、三之助は少しだけ後ろを振り返った。
        ・・・
そこには、四つのナニかが並んでおり、



『せ…ん…ぱぁい……みんな…まっ…てま…す、よぉお……』


・・
誰かの声が、聞こえた気がした。

















「そういえば、先輩先輩って呼ばれてたけど、あれ誰だったか思い出せないんだよな。顔も、制服の色も分かんないし。あれは一体誰だったんだろう」


自室に戻った後で、三之助はそう話した。
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