夢小説 | ナノ




06:その程度のことで悩まない

教室移動の際に、雑巾がけをしていた天女様に遭遇した。
今度の天女様はあまり活動的ではなく、食事も食堂が混む時間を避けて摂っているためなかなかその姿をみる機会がなかった。思わずしかめそうになった顔を慌てて取り繕う。


「貴女は…」
「こんにちは四年生君。私はみょうじなまえよ」
「私の名前は平滝夜叉丸。四年い組で委員会の花形体育委員会に所属する文武両道、容姿端麗、才色兼備の優秀な忍たまです!」
「そうなの。将来有望ね。確かに貴女は綺麗な顔をしているわね」
「えっ」
「えっ?」


思わぬ言葉に滝夜叉丸は声をあげて驚いた。
いままでの天女様は滝夜叉丸を鬱陶しがったり、あるいは逆に雌猫のようにすり寄ってきたりしてとにかく不快にさせた。今回の天女様は一体どちらだろうか。そう思いいつも通りの口上を述べたのだが、丸っきり肯定的な言葉をかけられて戸惑ってしまう。


「…天女様の方が、お綺麗ですよ」
「あらありがとう。でもどちらが綺麗だとか、そんなことは関係ないわ。綺麗なものは綺麗。それで良いの」
「……もしも、今の発言は嘘で私の方が貴女より美しいと言ったら…?」

「私ほどの美人になるとそういう発言に特に何も思わないわ。貴方が私よりも綺麗だったとしても、それで私の美人さが下がるなんてことはないのだから。貴方は綺麗。私も綺麗。どちらかをより綺麗だと思うのは選ぶ人の趣味嗜好の問題よ。花の綺麗さと星空の綺麗さを同列に語るのは無理があると思わない?例え貴方が100人に選ばれようと、私の美人さは変わらないのだから何も気にすることはないわ」


滝夜叉丸に衝撃が走った。
これほどまでに心に響いた言葉はいまだかつてない。
そうだ、いくら天女様が美しいといっても、滝夜叉丸だって変わらず美しいのだ。
そこに優劣をつける必要はなく、美しいものは美しいと認めるだけで良い。
事も無げに言い放った天女に、滝夜叉丸は何故か滲みそうになる涙を必死に堪え、


「………なまえさんは、」
「うん?」
「心も、美しいのですね」
「あら、ありがとう」


少しだけ柔らかく笑ったなまえに微笑み返したのだった。
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