夢小説 | ナノ




02:油断をする訳にはいかないのです

きり丸の様子に変わったところはなく、むしろ昔のような笑顔を久しぶりに見ることができた。「今回の天女様は、今までの天女様とは違うと思います」、と。
そう言ったきり丸の言葉を鵜呑みにするには、天女様という存在にかき乱され過ぎている。
その後あった乱太郎やしんべヱにも不審な様子はなく、きり丸とほぼ同じ証言をしている。
今回、半助は乱きりしんの様子を見るために未だ天女様を目にしていない。
自室に戻るとちょうど同室の山田先生が戻ってきた所だった。


「山田先生、きり丸たちは無事でした。それで天女様と学園長の話はどうなりましたか?」
「ああ、土井先生。いつも通りこの学園で保護することに決まったのだが…」
「だ、だが?」
「いつもとは違って、あの天女様は滞在費として自分の持ち物を差し出してきてな」
「滞在費、ですか?今までそんなこと言ってきた天女様はいませんでしたよね…」
「そうなんだ。しかもその差し出してきた物がどう見ても高価な着物とお茶道具でな。学園長が慌てて突っ返しておったわ」
「着物とお茶道具!?あの大きな荷物はそれだったんですか!」


天女様を学園長と引き合わせる前に、彼女の持ち物を教員で手分けして検分していた。
天女様を装った間者の可能性があるからだ。
半助自身は実際に中身を見る前に三人を探しに出たのでちらりと見かけただけだったのだが、その時に今回の天女様はずいぶん荷物が多いと思ったものだ。
過去に何度か見たことがある通学鞄と呼ばれる学生用の鞄の他に大きな風呂敷があった。


「ああ、何でもお茶のお稽古の帰りだったんだと」
「それで、その後は一体どうなったんですか?」
「学園長と天女様の押し付け合いでな。結局、乱きりしんを助けて頂いたご恩があるからと着物だけを受け取ることで収まった」
「そ、それでも着物は差し出してきたんですね…」
「天女様はいつも通り忍たまの6年長屋に部屋を見繕った。私がお送りしたのだが、…どうしても、気になってな。何故ああも頑なだったのかをお聞きしたんだ」
「気持ちは分かりますよ。それで、天女様は一体何と?」


『私ほどの美人になると親切なふりをして後からあの時の恩を返せと絡まれることも少なくありません。タダより怖いものはない、まさにその通りです。あなた方がそういう輩だと思っている訳では決してないのですが、何事にも保険というものは必要なことなのです』


「……ちょっと自意識過剰では…?」
「ううむ、それがな、今度の天女様は今までの中で飛びぬけて美人でなぁ。あながち一笑に付す訳にはいかんのだよ」
「それ、山賊に襲われたときに本人も言ってたみたいですが、そんなに…」
「一度遠くからでも見てみたらどうだ。今のところ誰も操られている感じはないが…」
「そうですね、あの子たちを助けてもらったお礼を言う名目で近づいてみます」
「十分気を付けてな」
「ええ」


天女様は敵か、味方か。
味方であった試しなど一度もない。一度もないが、今回が初めての一回になるかもしれない。
きり丸の笑顔を思い出す。
初めての一回になれば良い。
そう思った。
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