夢小説 | ナノ




01:悪漢退治もお手の物

お使いの帰りに山賊に遭遇するなんて運の悪い。
更にそこに天女様まで現れたのだから、不運としか言いようがない。
学園に天女様を連れて帰り、先生方に引き渡して事情を説明しようやく解放された。
しんべヱが空腹を訴え学食へ向かい、乱太郎は委員会に顔を出すというので一人で自室に戻ろうと歩いていると、焦った声で呼び止められた。


「きり丸!」
「土井先生!」
「お前たちが森で山賊と天女様に出会ったと聞いたが、大丈夫か!?」
「大丈夫っスよ、三人とも無傷です。ただ、」
「ただ?」
「その…天女様が……」
「天女様に何かされたのか!?」


歯切れの悪い俺の言い様に良からぬ想像をしたのか、土井先生の血の気の引いていくのが分かった。
今まで天女様のせいで、俺たち下級生は散々な目にあってきたからこの反応も無理はない。
だがしかし、今回ばかりはその想像は的外れと言って良い。土井先生が勘違いする前に慌てて手を横に振った。


「ち、違うんです!逆です!天女様が山賊から俺たちを守ってくれたんですよ!」
「て、天女様が…?どうやって?」
「俺たち、かくかくしかじかで山賊に捕まって縄でぐるぐる巻きにされてて、もう駄目だーってなった時に急に目の前に天女様が現れたんです」
「突然現れた?空から降ってきたんじゃないのか?」


今までの天女様は皆、それらしく空から落ちてきたから俺たちもすごくびっくりした。
今回の天女様はまるで瞬間移動したかのように目の前に現れたのだ。
天女様もあまり表情を動かさなかったけど少しびっくりした様子で『え?』みたいな顔してた。その後目の前にいた俺と目が合って、次に俺たちを縛った縄を持っている山賊に視線を動かして。


「山賊が天女様に「命が惜しければ抵抗するな」とか「これは高く売れるぜ」みたいなことを言ってて、天女様はなるほどって顔をしてこう言ったんです」


『私ほどの美人が目の前に現れたんだから、捕まえて売ろうというのも当然の発想です。私に危害を加えたり傷物にすれば価値が大きく下がること位理解出来ますね?命の危険がないのならば不本意ですが投降しましょう。ただしその三人の子どもは解放しなさい』


「………え?」
「山賊も土井先生と同じ反応してましたよ」


天女様はとても綺麗な容姿をしていた。着物は未来の物で山賊たちには奇怪に映っただろうが、それを差し引いても高く売れる宝物に見えたはず。
なんでガキ共を逃がさなきゃならないんだ、お前もこのガキ共も全員売っぱらうに決まっている!と山賊が文句を言ったら、本気で不思議って顔をしてこう言い放った。


『私ほどの美人を美しいまま捕まえられるというのに、子どもまで手に入れようだなんて、虫が良すぎるでしょう。世の中そんなに甘く出来ていません。それとも私の美貌がその子ども三人分の価値よりも下だとでも?』


「あ、ああ…そうか……うん」
「そしたら山賊の一人がキレて天女様に掴みかかって」
「!」
「そのまま金的くらって気絶しました」
「…………」

『私ほどの美人に触りたいと思うのは仕方のないことですが、女性の腕を乱暴に掴むなど男の風上にも置けません。悔い改めなさい』


後はもう、天女様の独壇場だった。わあわあ文句言って襲い掛かる山賊に石を投げ、落ちていた木の棒で足を払い、金的でとどめを刺す。
数分で男共が白目を剥いて泡を吹き地面に転がる地獄絵図が出来上がった。


「勇ましすぎる…!」
「山賊を全滅させた後、俺たちの縄を解いてくれてしんべヱが「お姉さん強ーい!!」って言ったら、」


『私ほどの美人になると護身術くらい身につけているものです』


「なんかちょっと、カッコよかったっス」
「そうだな、ちょっとで済むかは別として今までの天女様とは少し違うようだな…」


そうなのだ。今までの天女様とは一味も二味も違うのだ。
もしかしたら、今回こそは。思わずそう願ってしまうくらいには、規格外で、優しくて、カッコ良かったのだ。また、会いたいな。思わず口から出た言葉に土井先生が驚いた顔をして、その顔が面白くて思わず笑ったら、土井先生も笑って。久しぶりに、なんだかぽかぽかした気持ちになった。
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