夢小説 | ナノ




歪んでしまったパズルピース

「みょうじさんさあ、いい加減久々知くんと別れてくれない? どう考えたって私の方がお似合いでしょ。あなた鏡で自分の顔見たことある?」
「………」
「まただんまり? そこまでして久々知君の彼女の座を守りたい訳? まあ、そうよね。そもそもどうやって彼を誑し込んだのかしら?」
「……何回言われても私は兵助と別れない。だから園原さん、物を隠したり壊したりする陰湿な嫌がらせ、やめてくれない?」
「ふーん、つまり私の有難い忠告を聞く気がないってことね。なら、いいのよ。私に考えがあるから。…これ、何か分かる?」
「…そのカッターで、私を刺すつもり?」
「まさか!そんなことしたら私、捕まっちゃうじゃない!アンタみたいなクズの為に一生を棒に振るなんて考えられないわよ。これはね、こうするのよ……っ!」
「……、自分で自分を切りつけるなんて、気でも狂ったの?」
「あははははは! せっかく散々忠告してやったのに、馬鹿な奴!精々後悔するがいいわ!」
「………ああ、そういうこと」
「今更気付いたって遅いわよバーカ!」








「……うそ、」


誰がそう言ったのか。
なまえがポケットから取り出したボイスレコーダーから流れた会話は、皆には相当衝撃的だったみたいだ。
今の会話の後、園原が放送スイッチを入れて悲鳴をあげ、俺たちが駆け付けたという流れだ。視線がなまえから園原へと流れる。園原は青ざめた顔で首を横に振りながら、口角を微妙に上げて、まるで引き攣った笑顔みたいな顔で後ずさった。


「違う、違うの…これは、そう!偽物なの!私を陥れるために偽造したんでしょ!?」
「…俺達がここに来た時の会話も入ってるって言うのに、どうやって偽造するの?」
「ついでに言うとね、証拠はこれだけじゃないんだよね」
「はぁ!!?」


なまえはまたポケットに手を入れ、今度はUSBを取りだした。


「今までの暴言、嫌がらせを認めた発言、ぜーんぶここに入ってるの。信じられないっていうなら今から皆で」
「あっ」
「園原!?」
「こんなもの!」


突然園原が走り出してなまえの手からUSBを奪った。そして床に叩きつけて何度も何度も何度も踏みつける。当然、USBはぐちゃぐちゃに壊れてしまった。


「ふ、っはは!これでどうよ!」
「どうにも。それはただのコピーだから、好きなだけ壊せばいいよ」
「な…っ」
「それとね、園原さん。もしかして自分でいれたスイッチのこと忘れてない?」
「………!!」


スイッチとはつまり、最初に園原が悲鳴を流すために入れたスイッチのことで。
それが入れっぱなしということは、先程の録音も、証拠を隠滅しようとした様子も、逆上したやり取りも全て全校生徒に筒抜けだということだ。


「それとこのカッター、指紋を調べれば私が触ってないこと、立証出来るよね。だって園原さんが自分で切ったんだもんね。その腕の切り口も、自傷と他傷だとつき方違うんだよ、知ってた?」
「なん…っ、アンタ…一体何なのよ…なんで……」


ぺたんと床に座り込んでしまった園原を余所に、我に返った教師が慌てて放送スイッチをオフにする。なんで、と言う園原の言葉を「どうして証拠集めなんかしていたのか」と取ったらしいなまえはにっこりと笑いながら、


「だって、私の言葉だけじゃ誰も信じてくれないでしょう?あなたは外面がとてもいいから、私の無罪を証明する確実な証拠がないと、私は私を、私の居場所を守れない。今は録音出来るから、本当に便利な時代だよね」


ああ……。
今思うと、あの録音は誘導尋問だったのだろう。さりげなく園原に自分の行動を認めさせ、園原の行動を実況していた。
なまえはそういう計算された行動が苦手だったはずなのに。

現世で再会して、また皆で集って馬鹿みたいに騒いで。
昔と元通りだと思い込んでいた。思い込みたかった。

なまえは俺達の所為で変わってしまった。
なまえを俺達の所為で変えてしまった。

にこにこと笑うなまえに、俺は何も言うことが出来なかった。




歪んでしまったパズルピース
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