夢小説 | ナノ




10:崩壊のカウントダウン

「尾浜君、みょうじさん知らない?みょうじさん、ノート出してないんだよね」
「いや、知らないけど。すぐに戻ってくるんじゃないかな」
「戻ってきたら伝えておいてくれる?園原さんも探さなきゃいけないんだよね〜」
「…園原も、いないの?」


嫌な予感がした。
即行で立ち上がり、兵助の元へ向かった。
兵助とは、あの日以来ほとんど喋っていない。気まずさはあるものの、そんなもの些細なことだった。


「なまえどこにいるか知らない?」
「…知らない。勘右衛門の方が詳しいんじゃないの?」
「じゃあ園原は!?」


兵助の嫌みに反応する余裕もなかった。鬼気迫る俺の様子にさすがにたじろいたらしい兵助が、「二人とも、知らない」という答えを聞くのと、教室のスピーカーから悲鳴が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
ざわつく周囲。俺は一目散に放送室に走り出した。
叩きつけるように放送室の扉を開けると、中にいたのは園原と、なまえだった。


「園原さん!?」
「どうしたの!?」


園原は床に座り込み、涙を流していた。俺の後から追いかけてきたらしい女子数名と兵助。その中の兵助に抱きつき、泣きながら「みょうじさんが…!」と縋った。


「みょうじさん、あなた園原さんを切りつけたの!?」


園原の左手からは血が流れており、床には血の付いたカッターが落ちている。ようやく到着した教師が女子生徒を押しのけ、カッターを拾い上げようと動いた瞬間、今まで突っ立っていたなまえが、動いた。
なまえは教師がカッターに触れる前にカッターの上にハンカチを落として足で踏みつけた。
突然の行動に驚いた教師が手を引っ込める。凶器を手放さないなまえに焦ったのか、落ち着けだの大丈夫だからだの話しかけるが、なまえは一向に反応しない。代わりに喋り始めたのは園原だった。


「みょうじさんが…兵助君に近づくなって、私、委員会が同じだから…出来ないよって言ったの……。そしたら、急にカッターで……っ」


怖かった、と泣く園原を見ていると急に気持ちが落ち着いてきた。きっとわざとらしい泣き真似に冷めたんだと思う。前世で散々化かし合いをしてきた俺にとって、園原の演技はお遊びレベルだった。
なまえにしたってそうだ。学園から追い出された後、どんな生活をしていたのかはどうしても教えてくれなかったが、五年もの間、忍になるために勉強していたのだ。もし本当に園原に対して鬱憤を晴らすならばこんなヘマを踏むはずがない。もっと効率的で、手掛かりすら残さない方法を取るはずだ。


「ーーって、園原は言ってるけど。なまえ、本当は何があったの?」


「尾浜君!?」と信じられない、という声を出す女子たちを無視してなまえを見つめる。そこで初めてなまえがこっちを向いた。じっと俺を見た後、なまえはフッと笑い、真実を話し始めた。


「園原さんにずっと嫌がらせされてた。兵助と私じゃ釣り合わないから別れろって。断っても聞いてくれなくて。今日、放送室に呼び出されて、同じことを言われたから同じ様に断ったら、いきなりカッターを取り出して自分で、」
「ウソよ!どうしてそんなウソつくの?酷いよ!」


そうだそうだと園原に同調する女子たちがうるさくてイライラする。兵助を見ると僅かに眉間にしわを寄せて園原を見ている。これは、疑っているときの表情だ。

よかった、これで兵助がなまえを責め立てでもしていたら、俺は兵助を殴りつけない自信がない。


「信じてくれないよね。分かってる。だから、証拠もちゃんとあるんだよ」


ギャーギャーと騒ぎ立てる声はなまえのこの一言でぴたりと止まった。




崩壊のカウントダウン
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