夢小説 | ナノ




きみをわすれない

昔々、あるところに、小さな村がありました。
村には少ないながらにも人が住んでいて、貧しいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、そんな村に思わぬ不幸が訪れます。

 日照り
 こどもの事故
 火事
 大雨      

悪いことがずっと続くので、これはきっと祟りに違いないと思った村人たちは、小さな祠をつくりました。
その祠で神様をお祀りしたところ、すとんと悪いことは起きなくなりました。
ありがたい、ありがたいと村人たちはいつまでもその祠を祀り続けました。


村に、賊が来て悲劇が起こるまでは。


誰もいなくなった村には、ぽつんと小さな祠だけ残っていました。
祠には、誰が供えたのでしょうか。木の実や果実といった山の恵みがありました。

そして何年も何年も経ち、村の痕跡は跡形もなく消え、山に飲み込まれてしまいました。
さらにその数年後、村の近くの大きな建物が建ちました。
大きな建物は大きな学校でした。

祠に祀られた神様は、本当に存在しました。
神様は村人たちの願いが集まって生まれました。
村人たちが願ったのは祟りの回避。人間同士の争いは、神様の手が届かない管轄でした。

誰もいなくなった村をずっと眺めていた神様は、場所が良かったのでしょうか。信仰する者がいなくても在り続けました。
祟りをもたらす存在からこの場所を守って、護って、力が弱くなってきた時に、その学校が建てられました。

その学校は、神様の守る村からは、少しだけ外れていたけれども。
人間から生まれた神様は、人間が大好きでした。
何十年ぶりに感じた人の気配に、嬉しくなって、愛しくなって、守ってあげることにしました。

しかしその時既に、神様は老いていました。
人間から生まれた神様は、人間に信仰されないと弱くなってしまうのです。
土地の力も枯渇しかけたのか、神様の力は少しずつ弱まっていきました。

神様の力が届かない場所が増えて、祟りをもたらすものが蔓延りはじめました。
それは、神隠しだったり。不浄の物だったり。強きモノを語る弱者だったり。
形状は様々ですが、人間を蝕みはじめました。

神様は、もうおじいさんでした。
この場所を守るには、何者かにこの役割を継いでもらうしか道はありませんでした。
そうしなければ、ここはすぐに祟りに飲み込まれてしまいます。
ここは元々そういう場所でした。

だから神様は、お願いしました。
自分の為に、酒を用意してくれた小さな小さな人間に。
自分が守れなかった人間を代わりに守ってくれた幼い幼い少年に。


「みんなに会えないままは、寂しい」


少年は悲しそうに言いました。
それくらいならば。
少年の愛する者に、少年が最期の別れを言うくらいならば、今の神様の力でも出来ることでした。
それなら、と頷く少年に神様は喜びました。


「私の代わりにここを守っておくれ」


はぁい、と幼い返事が山にこだましました。










忍術学園の近くに、小さな小さな祠があります。
そこは、この一帯を祟りから守ってくれる、とても優しくてとても愛おしい神様が祀られています。

その祠はいつ見てもピカピカでした。

体育委員会が、毎日、委員会終了後にお参りにきます。
用具委員会が、月に一度、祠の点検にきます。
会計委員会が、修羅場の度に終わりを願っていきます。
生物委員会が、病気の生き物が早く元気になりますようにとお願いをしにきます。
保健委員会が、薬草が取れますようにと、山に入る時に祈っていきます。
作法委員会が、いつもありがとうと、お供え物を持ってきます。

小さな祠はピカピカになり、周囲に綺麗なお花が咲くようになりました。
毎年春になると、そこで萌黄色の衣に身を包んだこどもたちがお花見をしていました。


「遊びに来たよ、一緒に楽しもう?」


誰かがそう言うと、まるで返事をするかのように風がぴゅうとふき、綺麗な花弁が宙を舞うそうです。
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