夢小説 | ナノ




O型プロトタイプ02

昼食を食べ終え、次の授業まで時間のある真昼間。
今日は日差しが強いなあと光り輝く太陽を見上げた勘右衛門は、視界に入った屋根の上に誰かが寝ていることに気がついた。


「こんな暑い日に、よくもまあ屋根の上に…。熱中症にでもなってなければいいけど…」


逆光の為、制服の色が良く見えないが、足の大きさから見るに上級生だろう。
することもない勘右衛門は暇つぶしにでもと物好きな上級生の顔を拝みに行くことにした。


「あれ、みょうじ先輩?」
「んー? 尾浜か、こんなところで何してるんだ。熱中症になってもしらないぞ」
「その言葉はそっくりそのまま先輩にお返ししますよ」
「それもそうだな、暑い」


よっこいしょ、と爺くさい声をだして体を起こしたなまえは、側に置いていた水筒を傾け水を煽った。
その水筒を勘右衛門に向けてくれたので、「飲め」ということなんだろう。有難くいただいた。水が冷たくておいしい。


「そういえば、八左ヱ門が嘆いていましたよ。先輩が全然委員会に出てくれないって」
「ああ、そうなのか。可哀相な竹谷。尾浜から励ましてやってくれ」
「先輩が委員会に出るっていう選択肢はないんですか?」
「ないな。俺、動物に近寄ると蕁麻疹出るから無理。動物アレルギーってやつ」
「えっ、そんなの初耳です。っていうかそれなのに何で生物委員会に入ったんですか!?」
「発症したの六年になってからだからな。虫とかの世話なら出来ないこともないが、飼育小屋の付近は動物の毛があるから無理だった」
「……八左ヱ門はそのこと知ってるんですか?」


勘右衛門の言葉に首を傾げ、記憶を遡ること数秒。「ああ、」という言葉の後に続いたのは「忘れてた」という非情な内容だった。


「悪いが尾浜から竹谷に伝えておいてくれ」
「…そういうのはご自分で伝えた方が……」
「竹谷なあ、あいついっつも動物の毛が制服についてるから長時間側にいれないんだよなあ」
「…ああ、なるほど」


分かりました、と返事をしようとして思いとどまる。
面白いこと考えついちゃった。ニンマリと笑顔を作ると、「その代わり条件があります」となまえに言った。


「俺は八左ヱ門に先輩のアレルギーのことを伝えます。その代わり先輩も、雷蔵にそろそろ伝えてやってくれませんか?」
「何の話だか」
「しらばっくれても無駄ですよ。先輩、雷蔵のこと好きでしょう」
「ほう」


付かず離れず、曖昧な言葉と態度。
少し意地悪した後は、砂糖をまぶした上にはちみつをかけたように甘やかす。
思わせぶりななまえの動向に、勘右衛門は誰よりもその状況を正しく理解していた。


「駆け引きが楽しいのは分かりますが、そろそろ雷蔵が可哀相です。どうせ両想いなんですから、さっさとくっついちゃってくださいよ」
「さぁて、何を言っているのか分からないが、善処しておこう。竹谷への伝言は不要だ。伊作に頼む」


フッと、笑みを浮かべたみょうじの顔は大人びていてどことなく色気のようなものがあった。
一瞬、その色気にあてられた勘右衛門が我に帰った時には、みょうじはすでにその場から消えていた。


「…ちぇー、つまんないの」


せっかく雷蔵の為に一肌脱ごうと思ったのに。
まあでも、俺が口出しすることでもないか。人の恋路だしね。

うんうんと頷いた勘右衛門は、まだ授業まで時間があることを確認して屋根から飛び降りた。さあ、八左ヱ門でも探しに行こうか。












後日、「みょうじ先輩が俺のこと蕁麻疹が出るくらい苦手だって聞いたけど本当ですか!!?」と竹谷が伊作のところまで涙目で相談に行ったらしいんだけど、誰がそんなこと言ったんだろうな。なあ? 尾浜よ。
[]