夢小説 | ナノ




08:災難ですね

昨年の夏にさ、孫兵と一緒に裏裏山に行ったんだよ。
ウチは一つ下の後輩が入ってこなかったから、将来の為に生物委員が飼ってる狼の訓練を見せておこうと思って。

そしたら孫兵が「なまえも一緒でいいですか」って言うんだよ。
理由を聞いたら「一人にするのは心配だから」って。
なんでもその日、三反田と浦風はおつかい。次屋と神崎は迷子。富松はその捜索。委員会の先輩の兵助はい組の実習で、みょうじの面倒見る奴がいなかったんだと。

クラスの奴?
みょうじは、ちょっと、その、浮いてたらしんだよ。だからお願いしますって。
そこまで言われたら断れないし、まあ俺がちゃんと見てれば特に問題ないかなって。
だからいくつかみょうじに約束させて、三人で行ったんだよ。

それで訓練自体は滞りなく終わったし、みょうじもちょっとぼーっとしてたけど特に問題を起こすこともなく大人しくしてたんだ。
訓練終わって帰るかってなった時に、みょうじが寝ちゃってたんだ。すげえ気持ちよさそうに寝てて起こすのも忍びない、ってなってもうちょっとここにいるかって。
そしたら何か雲行きが怪しくなってさ。もしかしたら降るかもしれないから俺がみょうじを背負って帰ることにしたんだ。
でもついに降り始めちゃってさ。どうしようかってなった時に小屋を見つけたんだ。

後で聞いたんだがその小屋は体育員会の休憩所だったらしい。誰もいなかったし、みょうじをベンチに寝かせて雨宿りすることにしたんだ。
みょうじ?全っ然起きる気配なかったよ。もう爆睡。孫兵も苦笑してたな。
そんで、狼は先に学園に帰した。生物委員会の先輩に雨宿りするってメモを託してな。

外を見ると、なんと雷まで鳴りだしてさ。小屋を見つけて良かった!って安心したもんだ。
時間つぶしに孫兵と談笑してるとさ、傘をさした老夫婦が小屋に入ってきたんだ。
山菜でも取りに来て雨にふられたんだろう、って思って言ったんだ。「こんにちは、災難ですね」って。

そしたら爺さんが「ええ、ほんとに」って。
俺が孫兵と話してる間、老夫婦はじっと寝てるみょうじの方を見てた。何だか気味が悪くて、みょうじに何かするんじゃねえかって警戒して、いつでも対処できるようにずっと気を張ってた。

老夫婦が急に立ちあがって、にこにこしながら口を開いて、何か言おうとした途端にさ。
今までぴくりともしないで寝てたみょうじが突然ガバッと起き上がって、俺も孫兵もすげえびっくりした。
みょうじは目を擦りながら、「今の顔見ました?」って聞いたんだ。
何のことだと思って、孫兵を見たんだが、その時気付いた。

いつの間にか老夫婦がいなくなっていた。
扉が開く気配なんか全然しなかったし、外はまだ雨が降っていて、慌てて外に出たけど老夫婦の姿はどこにもなかった。
それによく考えると、老夫婦は籠を背負ってなかった。軽装だったし、そもそも老人が裏裏山にいる訳ないよな。気付くのが遅いって?俺もそう思う。なんで今まで気付かなかったんだろう、って茫然とした。
小屋に戻ったら孫兵がみょうじに色々聞いてた。


「んんー、どっかいっちゃったよ。なんか嫌な感じのが二つあって頑張って起きたの。ホントはもっと早く起きてたんだけど、『ダメー』ってされて起きれなかったの。ごめんね」
「さっきの、『顔を見た?』っていうのは、何?」
「顔見るの、あんまり良くないよ。じーっと見られてたからなかなか起きれなかったもの」
「……僕、見ちゃったよ」
「……俺なんか、話かけちゃったんだけど…」
「『災難ですね』、でしょう?『ええ、ほんとに』って答えたのは、竹谷先輩のこと言ってたんですよ」


正直言って、俺は結構ビビっちゃってさ。
…なんだよチャカすなよ。仕方ないだろ!
孫兵も心配そうな顔をしてて、それを見たみょうじがにっこり笑って、

      ・・       ・・・
「大丈夫、友達に孫兵たちに憑いて来ないようにお願いしたから」





……俺はもう、学園に着くまで一言も喋れなかったよ。
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