夢小説 | ナノ




番外編10:病人と微笑み

「前日に熱出すとか…」
「すみません」
「忍務どうするんですか」
「ごめんなさい何とかします」
「しっかりしてくださいよ先輩」
「申し訳ございません…」


だって!
なまえと二人での忍務だっていうから!
ついテンションあがっちゃって!

熱出してしまいました。
マジか…なまえにはめちゃくちゃ呆れた目で見られるし…。

只今、忍術学園から一日かけて歩いた距離にある宿屋の一室。
この宿から北の方角へ少し行くと城下町がある。そこに変装をしてからそれぞれ情報を集める計画だった。
なまえに良い所を見せるチャンスと道中はしゃぎすぎたのか、徐々に体が重くなるのを感じていた。なまえには何も言わなかったのだが、宿に着いた途端、「具合悪いんですか?」と詰め寄ってきて、最初は何とか誤魔化そうとしたが、なまえの追及に降参してしまった。



「ほら先輩、ちゃんと水分摂ってください。起き上がれますか?」
「だ、大丈夫」


なまえが体を支えてくれるのに甘えて身を起こす。口元に水を持って来てくれるのでそのまま頂く。冷たい水が咽喉を通る感覚が気持ちいい。
再び布団に寝かされ、固く絞った手拭いを額に乗せられた。

な、なんかなまえが優しい…!
ちょっとドキドキしてきちゃった!



「…何か変なこと考えてません?」
「えっ!?い、いや、なんで?」
「……目つきが…」


目つきが何!?
舐めるように見てた? ごめんね!

ごにょごにょと誤魔化すと、なまえはハァ、とため息をついた。そのままぽん、と額の手拭いに手を置いて、


「全く、病気の時ぐらい普通に寝ててくださいよ。そうでなくても最近お忙しそうにしてたじゃないですか。きっと疲れが出たんでしょう。明日の朝までしっかり休んでください」

イイ子ですから、ね?

優しく微笑まれて、布団の上から胸をトントンと叩いて。
子供扱いされているな、と思うと同時に何だか嬉しくって仕方がない。
なまえが一定のリズムでトントンされているせいか、なまえの言うとおり疲れていたのか。すぐに瞼が重くなり、「おやすみなさい、鉢屋先輩」という声で私は意識を手放した。








「おはようなまえ!清々しい朝だな!絶好の聞きこみ日和だ!」
「…………おはよーございます」


窓から朝日が差し込み、新鮮な空気を入れるために窓を開け放つ。
爽やかな風が部屋に流れ、なまえに話しかけると、沈黙多めにのっそりと布団から起き上がった。


「さあなまえ起きて!一緒に朝ごはんを食べ…ああっ、何してるんだなまえ、そんなに乱暴に擦って目に傷がついたらどうするんだ!こっちを向いてごらん、私がみてやヘブッ」


突然右の頬に衝撃が走り、勢いを殺せずに倒れ込んだ。幸いなまえの布団の上だったので痛くはない。


「い、いきなり平手打ちとか…」
「すみません、つい」
「ついって!」
「つい鬱陶しくって」
「言っちゃった!とうとう鬱陶しいって言っちゃったよ!」
「昨日の大人しい鉢屋先輩はどこにいったんですか?熱出して申し訳なさそうに布団に包まる鉢屋先輩どこ?」
「病人の鉢屋先輩はいなくなりました。代わりに元気いっぱいの鉢屋先輩がここに」
「もどして」
「もどらないよ!!?」


昨日「早く良くなって下さいね」って言ってたじゃないか! 何この変わり様! 先輩傷つく!
なまえは無言で私の額に手を当てると「熱、本当に下がったみたいですね」と呟き、身支度を始めた。


「…まあ、元気になったのなら良かったです。その分なら今日の忍務もバッチリこなせますね?」
「ああ、勿論だとも!」
「私は先輩の看病のせいでやや疲れ気味なので、その分元気いっぱいの鉢屋先輩が頑張ってください」
「ああ、任せてくれ!」


朝、目が覚めた時に見たのはなまえの寝顔…ではなかったが。
枕元に置かれた水の入った桶と、桶にかけられた手拭い。手拭いは、まだ乾いていなかった。宿の者に朝、出すように言われた洗濯物を入れるカゴには、一着の夜着。
夜中まで看病してくれたことが分かるその痕跡と、隣ですうすうと寝息を立てる可愛い寝顔に愛おしさが止まらなかった。

左腕に袖を通そうとして掴み損ねた衣を持ってやりながら、微笑みかける。


「その代わり、早く終わったら私に何か奢らせておくれ」
「…そうですね、それではついでにおいしいうどんの店でも、調べてきましょうか」
「それがいい」


ありがとう、と耳元で囁く。てっきり裏拳でも飛んでくるかと思いきや、返って来たのはとびっきりの可愛い微笑みだった。
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