夢小説 | ナノ




体温共有

「はあ…僕ってやつは……」


日差しの暖かな午後。下級生たちの楽しそうな声が聞こえる。
みんな元気だなあ、と思いながら木の作る陰の中でひたすらに落ち込んでいた。
考えることはただひとつ、自身の不甲斐なさについてである。自分が恥ずかしくって仕方がなくて、両手で顔を覆って体育座りをしていたから、話しかけられるまで後ろから来た伏木蔵に気がつかなかった。


「なまえ、どうかしたの?こんなところで…」
「伏木蔵…」
「何か悩みでもあるの?よかったら相談してよ…」


伏木蔵、優しいなあ…!僕も伏木蔵みたいな優しい子になりたいな!
密かに目標をたてつつ、僕のの言葉を待つ伏木蔵にやんわりと首を振った。


「ありがとう、でも別に悩みとかじゃなくてね。ちょっと自分のダメさについて考えてただけだから…」
「ダメ?なまえのダメなところってどこ?」
「うっ」


子供ってのは残酷だ。無遠慮で無配慮で、それでも無邪気で悪気は一切ない。だからこそダメージが大きいんだよね…。
ずーんと頭をたれながら、ひとつずつ挙げていく。


「ぼ、僕、うまく喋れないしすぐにどもっちゃうし、学級委員のくせに人に何か教えるのもへたくそだし、いっつも変なことばっかり言って皆を困らせちゃうし、根暗だしお邪魔虫だし不必要だし……ああ、本当にいつもいつも迷惑ばかりかけてごめんね…!出来るだけ直そうとは思っているんだけどどうしてもうまくいかなくて、い、いや、こんなのただの言い訳だよね。最初から言い訳なんかして同情買おうだなんて浅ましいよねごめんねごめんね!本当に僕はどうしていつも保身的で自己中心的なんだろう。もっと周りのことを考えなきゃいけないのに、こんな自分勝手でエゴイスチックなやつが学級委員だなんておかしいよね…!僕、斜堂先生に学級委員を変えて貰えないか頼」
「なまえったら難しい言葉知ってるんだねー」
「えっ、あっ、あの、」
「僕知ってるよ。なまえはいっつも周りのことを気にしすぎて難しいことばっかり考えちゃうんだよね。でも大丈夫、僕、なまえがろ組の学級委員で良かったって、毎日思ってるよ」
「ふぇっ」


予想外すぎる言葉に硬直してしまった。
えっ、えっ? あの、僕、僕…!
僕は今どんな顔をしているんだろう。僕の顔を見て伏木蔵が「すごいスリル〜」と笑って、


「よいしょ」
「あ、う」


ぴったりと、頬と頬がくっつくように抱きついてくれた。
子供にしては低い、それでも温かい体温が心地いい。落ち着く。
じわりと熱くなった目を擦ると「擦っちゃダメ!」と怒られてしまった。ごめんなさい…。


「あれ?なまえと伏木蔵?」
「こんな学園の隅っこで何してるの?」
「二人で日陰ごっこ?」
「怪士丸、平太、孫次郎…」


三人こそこんな学園の隅っこでどうしたんですか!
そうやって聞こうとしたけど、伏木蔵が口を開くのが先だった。


「なまえが落ち込んでるから励ましてるの…」
「えっ、なまえ落ち込んでるの…?」
「元気出して…」
「しっかり…」
「うぁ」


右に伏木蔵。左に平太。後ろから怪士丸が抱きついている。孫次郎は僕の膝の上。
あっ、あったかいなあ…! 四つの温もりに思わずほっこりしてしまう。
このろ組オリジナルの励まし法にはよくお世話になっています。主に僕が。というかほぼ僕が。
うう、お手間をお掛けしてすみません! でもあの、なんか、すごく落ち着くので。


「なまえ、元気出た?」
「……みんなありがとう…あったかい…」
「そもそもなまえは何で落ち込んでたの?」
「そ、それは、僕自身の不甲斐なさというか、」
「そうじゃなくて。どうしてそう思ったの?」
「誰かに何か言われたの?」
「……あ、安藤先生が、」
「安藤先生の言うことなんか気にしちゃ駄目だよなまえ」
「そうだよ、あの先生はい組ラブすぎて盲目になっちゃってるからね」
「目に入れても痛くないってああいう感じなんだろうね」
「ドンマイドンマイ」


安藤先生のお名前を出しただけで慰められちゃった…。
い、いい先生だよ!安藤先生も!…ちょっと他の組には厳しいけど……。

…でも嬉しいな、みんなこんな僕を慰めてくれるなんてすごく優しい子達だ。
ほぅ、と息を吐いて体から力を抜く。日陰特有のひんやりとした地面と触れている温もりが気持ちいい。完全にリラックスしていると側から聞こえたすうすうという寝息に思わず笑ってしまった。ひとつ、またひとつと寝息が増えていく。幸せを噛みしめながら僕も目を閉じて、









「ああーーっ!ろ組団子!ホラ三郎、幻のろ組団子が出来てる!」
「うっせえぞ勘右衛門!大きい声出したら起きちゃうだろ!ろ組団子可愛い!」

「………?」



何か聞こえたような気がするけど、重たい瞼を持ち上げることは叶わなかった。
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