夢小説 | ナノ




運命の赤い鎖

迷子といえばもちろん、三年ろ組の次屋三之助と神崎左門だ。
無自覚迷子と決断力迷子。じっとしていない性質のせいか保護者の富松は大変な苦労を強いられているらしい。
その富松の話によると、神崎は比較的発見しやすいという。アイツは常に大声で叫びながら走り回っているため、その声を頼りに富松は走るんだと。
逆に次屋は、あっちにふらふら、こっちにふらふらと見つけにくいらしい。縄を繋いでもいつの間にか切れていなくなっていることも多々あると聞いた。
お前も苦労してんなあ、と後輩を労うために金平糖をやった。泣かれた。

その噂の迷子だが、最近よく会うのは気のせいだろうか。
ふとした瞬間に思いもよらない場所で見かける。見つけたからにはきちんと送り届けてやるのが先輩の務めだろう。富松のストレスも気になるし。
そこまで親しくない後輩を縄で繋ぐのも憚られたため次屋の腕を掴んでの移送だ。無事富松の元に届ける。泣かれた。よしよし。




「最近ホントによく会うなあ」
「そうっすね。なまえ先輩だっこ」
「ヤダよ、お前重いもん」
「思春期の後輩に重いとかなまえ先輩ひどい。傷ついた。これは早急に癒してもらわないとマズイことになりますよ」
「例えば?」
「数馬が泣きます」
「お前…三反田に何をする気だ…!?」


そしてなんか急速に懐かれている気がする。いつの間にか名前呼びになってるし。別にいいけど。
次屋を見つけたら捕獲しておくよう富松に頼まれている。次屋を連れたまま神崎を探しに行くとまた次屋がいなくなり、見つけると神崎がいなくなりのエンドレスループが起こるらしい。涙ながらにお願いしてきた富松が不憫でならない。
そんなこんなでその次屋を発見したので逃がさないようがっしりと腕を掴んでいる訳だが。話と違って全然逃げないし消えないけど…あれ?
何故かしきりに抱っこを強請る次屋に首を傾げながら廊下の端に腰を下ろし、膝に乗せてやる。おお、次屋は三年では大柄な方だがやはり五年の俺の方が大柄だ。膝に乗っても目線が下にある。


「なまえ先輩」
「あ?」
「俺、無自覚な方向音痴って言われてるんです」
「知ってる」
「行きたい所になかなか辿りつけなくて、気付いたら全然違うところにいるんですけど。でも、なまえ先輩の所に行きたいって思って歩いたら、ちゃんとなまえ先輩のいるとこに着くんです」
「…うん?」
「だから最近は迷ったらなまえ先輩の所に行けって作兵衛に言われてるんです」


最近次屋とのエンカウント率が高いなーって思ってたらお前の仕業か、富松。いや、別にいいけどさあ。
ふと胸に温度を感じ、見ると次屋が抱きついていた。ちょ、あの、スリスリと頭を擦りよせるのは別いいけど、匂い嗅がないで。恥ずかしいから。


「これって、運命だと思いませんか」
「……運命?」
「運命の、赤い糸ってやつで繋がれてるんじゃないですかね、俺となまえ先輩」
「…お前は糸なんてやわなもんだと引きちぎっていくじゃん」
「じゃあ、縄…もいつの間にか切れてるから、鎖。運命の赤い鎖ですね」
「いや、ですねって言われてもなあ」


相変わらず匂いを嗅ぐ次屋の髪をぐいっとひっぱると痛いと抗議の声があがる。
それでも背中に回された手は決して離さない次屋に感心する。何その根性。いけどんで培ったの?


「つまりお前は俺が好きなの?」


手が離れた。
そのまま後ろ向きに倒れそうになる次屋の体を髪を引っ張っていた左手で支えてやる。
真っ赤な顔をしている次屋はぱくぱくと口を動かした後、こくりと頷いた。
こういうのもなんだけど、これだけ積極的な行動を取っておいて何真っ赤になってんの?ずれてるよお前。


「俺はお前のことただの後輩としか思ってないけど」


ぎゅうっと俺の袖を握りこむ次屋の手を出来る限り優しく解きながら、


「でも別に好かれるの嫌じゃないから、頑張ってみたら」
「――絶対落とすっ!」




顔を真っ赤にした次屋が口吸いかまそうとしたので全力で忍者して避けました。
次屋の羞恥の基準が分かりません。
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