夢小説 | ナノ




会計委員会代理

「あ、あの…団蔵の代理を務めさせていただきます…みょうじなまえです……」
「代理だと?」


怪訝そうな顔をなさった潮江文次郎会計委員長に恐る恐る事情を説明すると、なんということでしょう。潮江先輩の顔がみるみる般若のように…。


「なぁにぃ!?みょうじの投げたボールが団蔵に当たりそのまま池に落ち、体調を崩して休んでいるだと!?」
「はっはいぃぃ!」
「軟弱すぎる!鍛錬が足りんからそのくらいのことで体を壊すのだ!復帰したらギンギンに稽古をつけてやる!」


ああああああ団蔵が悪いみたいになってるよ!?何で!?
と、とにかく何とかして団蔵に非はないことを説明しなくちゃ…!


「ち、違うんです潮江先輩!僕が悪いんです!僕がこめかみに思いっきりボールをぶつけてしまったのが悪いんです!二回も!」
「二回も!?」
「そ、それに三日前くらいに桶に汲んだ水を転んだ拍子に団蔵にかけてしまって…!それで体調を崩したんですそうに違いないんですうわああごめん団蔵今すぐ保健室に行って団蔵の風邪貰ってきますぅぅうう!!」
「分かった、分かった団蔵は悪くないから落ち着けみょうじ!」
「ふぁい……」


駆け出そうとした僕の首根っこを潮江先輩が掴んで止めた。
ごめんねごめんね!わざとじゃないんだよぉ…。僕が風邪ひけばよかったのに…。
もう二度とボール遊びなんてするまい。そもそも最初にぶつけちゃった時にやめとけばよかったのに自分の欲を優先して同じ過ちを繰り返すなんて僕の馬鹿あああ!!


「ほらなまえ、潮江先輩もう怒ってないから元気出せよ。団蔵の代わりに会計委員会の仕事、手伝ってくれるんだろ?」
「う、うん。ありがとう佐吉」


佐吉にまで気を遣わせてしまうなんて…!馬鹿!大馬鹿!
せめて、団蔵の代わりに委員会頑張ろうって決めたじゃないか。大丈夫、出来る、頑張れ僕!


「ではみょうじは俺たちが計算した帳簿の確かめをしてくれ」
「はい」


持参した算盤を手に、団蔵の定位置に腰を下ろす。
地獄の会計委員会委員長もさすがに僕みたいな貧弱に十キロ算盤を弾けとは言わなかった。温情ありがとうございます!!
早速帳簿を開いて算盤を弾く。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパ


「ちょっと待て!!」
「はひっ!?」


ガバッと僕の正面に両手をついた潮江先輩にびっくりしてしまった。
なななな何でしょう!? この短時間の内に何か粗相でもしてしまいましたか!!?


「何だその早さは…お前、きちんと計算しているのか?適当にやってるんじゃないだろうな…?」
「そ、そんな滅相もないですごめんなさい……ここ計算違いがあります……」
「おお!本当だ!すごいなみょうじ!」


神崎先輩が覗きこんで褒めてくださった。
ぼ、僕なんかを褒めてくださるなんて神崎先輩はすごく出来たお方なんだなあ…。後輩への気遣いを忘れない先輩って格好いい。
それに比べて僕は……。


「僕の見間違えではないと思うが、お前、両手使ってなかったか?」
「は、はい…両手で……使っちゃだめでしたか!?」
「いや、そういう訳ではないんだが…」


腑に落ちないみたいな顔をした田村先輩。
僕はどうして円滑に物事を進めることが出来ないんだろう…。平成で両手で弾いていたからってこっちでもやって良いとは限らないのに…。
きっと会計に伝わる伝統?暗黙の了解?みたいなので両手で弾くのは禁止されているに違いない。
ごめんなさい今すぐ直すから許してくださいぃ!!


「潮江先輩、田村先輩。なまえはすごく計算が早いんです!さっきみたいに両手で珠を弾くのもそうですが、暗算も早くて正確なんです!」
「そう…なのか?」
「はい!」


佐吉がどこか誇らしげな顔でフォローしてくれる。
さ、佐吉…僕佐吉大好き…!一年い組ってすごく親切な人多くて大好き。今度お礼に伺います佐吉甘い物好きかな!!?
佐吉に渡すお礼について考えていてよく聞いてなかったけど、最終的に僕は両手で算盤を弾いていいことになっていた。
ま、まあ僕会計委員会じゃないしね。うん、部外者だから…。


「ご、ごめんなさいっ、僕の所為で無駄に時間を使わせてしまって…!お詫びに一生懸命やります!!」


この際、腱鞘炎になったって構わない。団蔵の分はもとより、僕の所為で皆さんに損害を与えてしまった分まで仕事で償わせていただく他ない。
大丈夫です!小学生のころ算盤習ってたし施設に行った後はネットでフラッシュ暗算して遊んでたから、計算は得意なんです!
一心不乱に算盤と睨めっこしていたせいで、会計室の視線を独占していたことに僕は一ミリも気付かなかった。














「おい鉢屋、尾浜。お前んとこのみょうじを会計にくれ。あいつは会計にこそ相応しい人材だ」


数日後のことでした。食堂に入ろうとした時、丁度自分の名前が聞こえたので立ち止った。
な、なにかな。潮江先輩、どうしてそんなこと…。

ハッ!もしかしてこの間、委員会をお手伝いした時に色々あったし、先輩直々に僕にお叱りを!?
自分の委員会に入れて監視をすると…!?

そんなに怒らせてしまったなんて!
サァッ、と血の気が引いて行く音がする。どどどっどどどうしようぅううう!!

僕が焦っている間に、鉢屋先輩と尾浜先輩はお互いに視線を合わせ、フッと笑った後、


「おっとぉ急に現れて開口一番に突然何を言い出すかと思えば人の大事な後輩を寄こせだなんて何ふざけたこと言いやがりますか?あん?」
「三郎ー、ちょっと潮江先輩に化けて褌一丁でくのたま長屋練り歩いてこない?」
「いいなそれ。すみません、私ちょっと急用が」
「待てこら!何でそんなに喧嘩腰なんだよ!」
「何でですって!?学級委員長委員会はねぇ!全然後輩がいなくって!今年になってやっと後輩が出来たんですよ!?」
「しかもなまえは引っ込み思案でなかなか甘えてくれないけど最近になってようやく宿題聞きに来てくれるレベルまで好感度が上がったって言うのに寄こせとか!!」
「うるせえあいつのおかげで三日は徹夜覚悟だった帳簿が一晩で終わったんだぞ!? あの計算能力を最も生かすことが出来るのは会計委員会しかないだろ!」
「結局潮江先輩はなまえの技術が欲しいだけなんでしょう!?」
「サイッテー!潮江先輩のケダモノ!なまえ能力だけ手に入れればいいような鬼になまえは渡さないんだから!!」
「お前ら面倒くせええええ!!」


あわわ…先輩たちが喧嘩してるぅうう!
ぼっぼくが原因で怒鳴り合ってるぅうううう!!
ああああ鉢屋先輩が拳握って…! や、やめっ……


「うわああああ僕のせいでごめんなさぁあああいいいいいい」
「「なまえ!?」」
「みょうじ!?」
「勝手に会計の手伝いしてしまってごめんなさいいいいい!宿題聞きに行っちゃってごめんなさいもうしませんー!!」
「うわああ聞いてた待ってなまえ!来ていいから!むしろ来てほしいから!!」
「あわよくば俺らが自ら教えに行きたいレベルだから!!」
「みょうじ、この間は……早っ!」
「何してんですか潮江先輩全力で捕まえに行ってください!」
「この状態のなまえは物凄く逃げ足速いですから!全力で!!」


一時間後、綾部先輩の落とし穴に落ちてしまった僕を引きあげてくれたのは潮江先輩でした。
お手数おかけしてすみません……。
鉢屋先輩と尾浜先輩に左右から抱きつかれて「大好きだから絶対に余所の委員会には渡しません宣言」して、貰っ、ちゃ……た。

先輩方やさしい。だいすき。ずっとここで暮らしていきたい。




一ろ学級委員長の続編を望まれる方が多かったので書いてみました。
パニックモードになったなまえはすごく足が速い。上級生でも全力でしばらく追いかけるレベル。原因の三人は後で庄左ヱ門と彦四郎に怒られる。

そろばんのくだりですが、実際そろばん十段の方は両手で弾くそうです。
ようつべに動画があって見てみたらものっそい早くてびっくりました。
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