「あれ、もしかしてトウヤさんですか?」
「え?あ…メグリさん」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには以前地下施設で会った少女が立っていた。
「やっぱりトウヤさんだ。違ってたらどうしようかと思いました」
にっこり笑う彼女にいつもの制帽と上着はなく、かわりに灰色のカーディガンを着ていた。
「こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
よかったらご一緒しませんかなんて笑ったメグリさんは普段の大人びた印象とは違う、年相応の無邪気な笑みを浮かべていた。
銀色の髪をなびかせて歩く彼女はころころと表情が変わって面白い。話の内容は育成法だったりこのあいだのバトルの話だったりと様々だが、やはり兄であるノボリさんとクダリさんの話をしているときの彼女が一番輝いていた。
自分はまだ数回バトルしただけの仲だからそんな風に話してもらえないのはわかってる。だけど何だか。
「妬けちゃうなぁ…」
「え?何ですか?」
「何でもありませんよ」
曖昧に笑うと彼女は不思議そうな顔をしながらもそれ以上は聞いてこなかった。
それからまた他愛ない話をしながらライモンの街を歩く。
不意に彼女が思い出したように言う。
「そういえば、トウヤさん最近いらっしゃいませんよね」
「え?」
「トリプルトレインにですよ!」
「ああ」
なるほどと小さく呟くと、メグリさんは不満そうに口をとがらせた。
「なるほどじゃないですよ。何で来てくれないんですか。戦りがいのあるトレーナーが滅多に現れなくて退屈してるんです」
突然饒舌になったメグリさんは口調が砕けているのにも気づいていないらしく、捲し立てるように話し続ける。
「ただでさえトリプルは難易度が高くて、精神的にも疲れるから挑戦者が来たとしてもほとんど1両目で降りちゃうんです」
「そうなんですか?」
「ええ。だからトウヤさんには是非ともバトルサブウェイ、トリプルトレインに来てほしいんです!」
笑顔に戻ったメグリさんは、不意に両手を握ってきた。予想外のことに一瞬肩が跳ねる。
焦りながらも頭の片隅では、小さい手だなあなんて冷静に分析している自分がいて少しだけ苦笑する。
「分かりました。今度、トウコと一緒に行く予定があるんです。そのときに乗りますね」
そう告げると、ぱああと輝く表情。それにつられてこちらまで笑ってしまった。繋いだ両手をぶんぶん上下に振って、絶対ですよもちろんです約束ですよ約束しますというやりとりの後、満足そうに笑った彼女はゆっくり手を離してひとつ頷いた。
「約束ですからね!忘れずに連絡くださいね!」
それでは私はここで失礼します、会釈をして背を向けたメグリさんだったがふと立ち止まってこちらを振りかえると。
「短い間でしたけど楽しかったです。また近いうちにお会いしましょう!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
小さく手を振ったのを確認すると、今度こそ彼女はライモンの雑踏の中に姿を消した。
しばらく人の波をぼんやりと見ていたらふとあることを思い出した。
「あ。メグリさんの番号知らないや。」
まあ、今度あったときにでも聞けばいいか。そう納得して、ゆっくり歩き出す。
近い未来行われるバトルに胸を躍らせながら、自身もまた雑踏の中へ身を投じた。
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