※トウヤ視点


最近、興味深い話を聞いた。何でもあのバトルサブウェイに新しい車両が出来たとか。しかも、それは今までなかったトリプルバトル専門らしい。
それを聞いた瞬間、自分の中で熱いものが込み上げてくるのがわかった。バトルの直前で感じるなんともいえないあの感覚。
行かなくちゃ。
そう本能が告げていた。


‐‐‐‐


あれよあれよという間に二十一戦目まできた。
あまり経験したことのないトリプルバトルに最初こそ戸惑っていたが、慣れれば案外いけるものだ。三匹同時に指示を出すのは精神的にも身体的にも結構な負担ではあるが、その分技が決まったときの喜びは大きい。

目の前の自動ドアを見て、思わず口端がつり上がるのがわかった。わくわくする。一体どんな人がこの先にいるのだろう。

自動ドアが開いた先にいたのは、白でも黒でもない色を身に纏った人物だった。灰色の制服の左腕に巻きつけてある腕章とネクタイはどちらも赤色で、あの二人に比べると全体的に大分小柄であるように見えた。

(男…?でもそれにしたら小さいな)
そんなことを考えていると、ふと制帽のつばに隠れていた瞳が見えた。どこか見覚えのある薄墨色の瞳をもつ無表情なその人は、黒いあの人を連想させた。
ぱちりと目があった瞬間灰色の人は無表情から一転、ぱあっと花が咲いたような笑みに変わる。
そして、鈴を転がすような声で話し出した。

「本日はトリプルトレインへの御乗車誠にありがとうございます。私、サブウェイマスターのメグリと申します。当トリプルトレインでは、シングルでもダブルでも味わえないバトルを皆様にご提供しております。」

にこにこと屈託のない笑みは、白いあの人に酷似している。
既視感からボールを握る両手にじわりと手汗が滲んだ。

「読めないバトル!限りない組み合わせ!指示するトレーナー!どんなバトルになるのか私はすっごく楽しみです!お忘れものはございませんか?それではトリプルトレイン、出発進行ーッ!」

彼女の掛け声と同時に六つのボールが宙を舞った。




‐‐‐‐‐‐




「おや、トウヤ様。お久し振りでございます。」
「ああノボリさん、お久し振りです。」

ノボリさんは俺の歩いてきたほうに視線をやると、ふむと顎に手を当てて言った。
「どうでしたか?新しい車両は。」
「……また、来ます。」

それだけでバトルの結果がどうだったのか理解したらしいノボリさんは、小さく頷いた。

「是非ともそうしてくださいまし。メグリにもいい勉強になりましょう。…ただ、トリプルトレインはまだテスト段階ですので常に運行している訳ではありませんが。」
「へぇ…そうなんですか。」

この際だから俺はノボリさんにメグリさんとバトルをしてからずっと疑問に感じていたことを聞いてみることにした。

「…ノボリさん、ひとつお聞きしたいんですけど……メグリさんって、もしかして…。」
「…おや、お気づきになりましたか?」

楽しげに目を細めるノボリさんを見て、俺の疑問は確信へと変わった。

「メグリは私たちの妹でございます。」


ああ、だから勝てなかったのか。
腹の底にたまっていたもやもやしたなにかがすっと消える感じがした。自分でも驚くほどすんなり納得した俺は、脳裏に浮かんだ灰色に映える赤に思いをはせた。

次こそは、俺が勝ってみせる。

そう心の内に宣言して、俺は小さく微笑んだ。完全に自分の世界に入ってしまった俺は、こちらを見るノボリさんの口許が僅かに弧を描いていたのには一切気がつかなかった。






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