来る者拒まず去る者追わず。
私はそういうスタンスで今までずっとやってきたし、これからだってそうだし、これでも一応それなりの友好関係を保てていた。だがしかし、どうやら今回のお相手はこれがなかなか通用せず、寧ろ面倒な事態を招くばかりだった。

「みょうじさん!今帰り?おれ、送ってくよ!」
「え、あ、日向くん…」

私と同じ1年1組で、さらには隣の席。名前は日向翔陽。そう、このオレンジ色がまぶしい日向くんこそ、私にとってはなかなかのくせ者であるのだ。
冒頭にも述べたように、私は基本的に来る者は拒まない。が、それはこちらが引いたある程度のラインまでであり、当然それを踏み越えてもいい相手は選んでいる。しかし日向くんは、私はまだラインを越えていいなんて思っていないのに、そんなラインはお構いなしにズケズケと内側に入り込んできて、こうやってわざわざ私を気にかけたり話しかけたりしてくるのである。というかまず、彼との接点なんて、ただ席が隣同士でちょくちょく話すということだけで、私は何もここまで好かれたり帰り道を心配されたりするようなことはまったくしていない。ここまで好かれているのは一体何故なのだろうか。この答えは多分本人に聞いてみないとわからない。聞く勇気はまったくないけど。

「え、いや、別にいいよ」
「遠慮しなくていいって!送ってく!」
「えーっとですね、遠慮とかじゃなくて、ていうか日向くん部活は…?」
「なんか今日は体育館使えなかった!だからみょうじさん送ってく!」
「いやいや…大丈夫だから、」
「暗くなってきたし、女子一人じゃあぶないって!」

まだ夕焼けこやけで日が暮れてきたばかりなんだけどな、まだ全然暗くないんだけどな。口から出掛かったその言葉を何とか飲み込んでから、はぁぁ、なんて深々と溜め息を吐いてうなだれる。ああもう面倒くさい。
そして結局、数十秒間の攻防戦の末に折れた私は、日向くんに途中まで送ってもらうことにした。だってあのままやってたらそれこそ日が沈んでいただろう。とにかく私は早く家に帰りたかったので、どうしてもそれだけは避けたかった。


▽△▽△


「………」
「………」

そして、何でしょうか、この沈黙。日向くんがおしているチャリのタイヤのカラカラという音だけが響いている。
二人で並んで歩き始めたのはいいが、お互いに一言も発さず、ただひたすら茜色の歩道を行くだけで、どことなく気まずい空気が流れていた。ちょっとまて、いつも友だちに囲まれていて楽しそうで太陽みたいに輝いている日向くん、あなたコミュ力高いんじゃないのですか。数センチ上にある日向くんの顔をちらりと見上げると、この夕日のせいなのか何なのか、ほのかに赤くなっていた。何でだろう、やっぱり私のことが好きなのかな。どこか他人ごとのように考える。
…いや、まあとにかく、それよりもまずこの無言の時間をどうにかしたい。どうしよう、何か言ってよ日向くん。

「………あ、あのさ、」
「!ごごごごめん!な、なに?!」

勇気を振り絞り、沈黙を破るために話しかけると、日向くんは大袈裟なくらいに肩をびくりと揺らしてから何故か謝ってきた。どうして謝るのかな…と気になったが、とりあえずそのまま続ける。

「えーっと、日向くんってさ」
「うん?」
「確かバレー部だよね」
「うん!…あれ、知らなかった?!」
「いや…たまに第二体育館の前横切ると…その、日向くんがすごいジャンプしてボール打ってるの、見えるから…」
「そ!そうなんだ!」

うん、すごく格好いいと思ったよ。
バレーやってる日向くんを見たことがあるのも本当だし、格好いいというのも本心である。
すると、途端に照れたような顔になってポリポリと頭をかいた日向くんに、私は次に何て言ったらいいのか言葉に迷った。なんて言えばいいんだろう、コートの中を縦横無尽に駆け回っているのがすごい?…いや何かヘンだな。まるでコートの中の主人公みたいな感じで、すごく輝いていた?…主人公、主人公って言ってもいいのかな。
えーっと、だからその、と目を泳がせているのも束の間、いよいよ私の家が見えてきた。助かった、と内心ホッとしながら「……あ、じゃあ、この辺で…」と別れを告げようとすると。
 
「あ!みょうじさん!」
「はいぃ?!」
 
突然大声を出した日向くんに驚いて、思わずヘンな声で返事してしまった。少し恥ずかしいな…なんて思いつつも、何事もなかったかのように「何?」と訊ねる。
しばらくは口をパクパクさせて言葉を選んでいる様子だったが、日向くんはとうとう意を決したようで、一度大きく深呼吸してから、言った。

「そのっ、えっと、今度!練習試合があるんだけど!」
「そ、そうなんだ…」
「……も、もしよかったら観に来ない…?」
「え」
「あっ、無理なら良いけど…あっと、えっと、うんと、みょうじさんの家ってここだよね?じ、じゃあまたね!」
  
噛みまくり、でも最後は一気にまくし立てるように言ってから、日向くんはチャリに飛び乗り「バ、バイバーイ!」と叫んでから帰っていった。その後ろ姿を呆然と見つめながら、ようやく正気に戻る。そこで、何故か自分の心臓が大きく音を立てているのに気付いた。え、何だコレ、あれ、もしかして、あれ。

私は来る者拒まず去る者追わずのスタンスでやってきたし、これからだってそうだ。だから来てくれる者は拒まないし、去っていく者は追わない。けど、自分から追いかけてみるのも良いのかもしれない。
…よし。今度、日向くんのバレーやってる姿を観に行ってみようかな。
心の中でちょっとした決意をして、家のドアをゆっくり開ける。思わず頬が緩んでしまうのを堪えながら、「ただいま」と叫んだ。


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