真っ直ぐな瞳に心を射抜かれた。

隣の席の影山くんは、いつも眠たそうに頬杖をついている。
黒板をぼーっと眺めて、手元は全く動く気配がない。先生の話は右から左に流れてしまっているんだろうな、とすぐにわかる。
頬杖をついてぼんやりしているならまだマシな方で、酷い時は教科書やノートを枕がわりにして寝ていることだってある。まともにノートをとって、授業を聞いている姿を見たことは、まだ数えられるくらいにしかない。

「おい、話聞いてるのか!」

そんなことで大丈夫なのかなぁ、なんて他人のことを考えて、授業に集中していないのはわたしも同じ。
大きな声にはっとして教壇の方を見ると、先生が真っ赤な顔をしてわたしを睨んでいた。
あ、まずい。と思った時にはもう遅くて、先生の後ろの黒板に書かれてる内容は、わたしのノートに書いてあるものからだいぶ追記されている。かなり長い時間、考えごとに没頭していたのか。
クラスメイトや、わたしより前の席に座っている友人の、あーあ、アイツやっちゃったなー。と言いたげな表情が心に刺さる。恥ずかしい。
隣の席では、影山くんがわたしをちらりと見て、口元だけにやっと笑ってみせた。
自分だって授業に集中してなかったくせに。ノート真っ白のくせに。心の中で悪態を吐くものの、実際に喧嘩を売る勇気はない。

そんなこんなで、影山くんには、あまりいい印象がなかった。
いつ見てもその横顔はやる気のない、眠たそうな顔で、この人一体なんでこんなに眠そうなのかな。と思うくらいだった。
そんな彼のイメージが覆されるのは、入学して一ヶ月くらい経ってからのことだった。

放課後、同じ委員会に所属する先輩に物を届ける用事ができたので体育館に行くことになった。
部活に所属していないわたしは、放課後に体育館に行くこと自体全くなく、どの部活がどの体育館を使っているのかもイマイチ把握していなかった。
職員室であの体育館に行けば会えるから、と先生に言われるがままに来ただけで、まさかそこに影山くんがいるなんて思いもしなくて。
わたしが体育館についた時に、試合形式の練習の最中だったようで、ちょうど影山くんがサーブを打つところだった。
ああ、この人バレー部だったんだ。と思うのと同時に、いつもは見せないような真剣な横顔に、思わずどきりとしてしまった。


その日は、試合中に水を差すのも申し訳ないので、コートの外にいた顧問の先生に、後で渡しておいてください。と託して、そのまま帰った。
次の日に見た横顔は、やっぱりいつものやる気のない表情で、昨日見たのは夢だったのか?と錯覚するくらいだった。

「みょうじ」

あ、やばい。見てたこと気づかれたかな。いきなり声をかけられたことに驚いてしまい、裏返った声でなに?と返してしまった。

「いや、ノート貸して欲しいんだけど……」

「え?」

「その、ノートをだな……」

いやいや、ノートはわかりますけども。正直なところ、なんでわたし?と思う気持ちが大きいわけで。
わたしもあまり真面目に授業を受けている方ではないので、借りるならもっといい人がいると思うけど、って意味。

「わたしもあまり真剣にノートとってないし、その」

「は?なんでだよ」

なんでだよ、とは。突拍子もないことを言う影山くんについぽかんとしてしまう。
そのなんでだよ、は、なんでちゃんとノートとらないんだよ。の意なのか、なんで断るんだよお前。の意なのか。
後者はともかく、前者だとしたらまさに、その言葉そっくりそのまま返してやる。と言ってやりたいところである。

「お前、いつも真剣にノートとってんだろ」

たまに意識どっかぶっ飛んでるときあるけど。と加える影山くんに、余計に驚きを隠せない。
いつもって、なに。あなたがなんでわたしの授業態度のあれこれを知っているんですか。
数秒して、ようやく自分がなにを言ったのか理解したらしい影山くんが、違う。そうじゃない。と変に慌て始めた。

「ずっと見てたとか、そういうわけじゃねぇから。……あ」

墓穴を掘りに掘った影山くんの顔は、いよいよ赤い。
きっと、わたしも同じくらい赤くなっているんだろう。
おかしいな、わたしは昨日の真剣な横顔に惹かれた筈なのに、今目の前にいる、赤い顔を必死に隠す影山くんにもときめいてしまっている。



横顔に片思いしてたはず

140625


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