「ツッキーやるじゃん!」 「ツッキー天才っ!」 「うるさい二人とも」 はぁぁ、と深いため息をついた僕には全くお構いなしに群がるのは幼馴染みの山口とみょうじ。 ただ数学の小テストの点数が満点だっただけなのに、まるで神様のように褒め称えられる。たかが10点満点の本当に小規模なテストだ。僕以外だって何人も満点を取る奴もいるのだから、大袈裟すぎると二人に言いたい。言わないのは、言っても理解してもらえないし、正直褒められて嫌な気分になるわけでもないからだ。こんな簡単なことで僕を評価してくれるのなら安上がり極まりない。 ただ、僕のすることなすこと全てに一々こうして騒ぎたてるのはいい加減やめてほしいとも思う。もう少し抑えて欲しい。僕が言ったところで、このバカコンビは素でやっているのだから今更治らないだろう。この先どれくらいの付き合いになるかは分からないけれど、大人になってもこのままなのだろうか。だとしたら、とても恥ずかしい。 そんな二人と出会ったきっかけはなんだったんだろう。山口は、覚えている。イジメられてる時に声をかけたら懐かれた。別に助けようとか思ったわけでもないし、カッコつけたわけでもないけど、山口はそんな僕をまるでヒーローのように扱った。 でも、みょうじは?山口の幼馴染みだというみょうじは、気づけばいつも一緒に居た。多分、山口の隣に居たのだろうけどモヤァとした曖昧な記憶の中で、みょうじは更に曖昧な存在だ。 そんなみょうじが今では無視出来ない程の大きな存在になっていた。もちろん、良い意味で。 「ねー、ツッキー!今度、バレー部の練習見に行ってもいい?」 「は?無理に決まってんデショ」 「なんでー!なんでよ、ツッキー!何でダメなの?」 「見たって面白くないし、練習の邪魔になるから」 嘘。ホントは見に来て。僕だって一応、健全な男子高校生なのだから、好きな子の視界には出来るだけ入っていたい。僕だけを見て、ずっとツッキーツッキーと僕の後ろをついてこればいい。そう思ってはいるものの、みょうじに対して素直になることが出来ない僕の口からは淡々と否定の言葉が飛び出した。普通の女子ならここで諦めて引き下がるのだが、みょうじは違った。むしろ、食い下がる。最初は怯んでいたみょうじも、長年一緒にいるうちに僕が本気で拒んでいるわけではないことを学習したようだ。なので、本気で僕が嫌がらない限り彼女は諦めない。 「えー、でも忠が見に来てくれたらツッキーが喜ぶからって言ってたのに」 「あいつ…余計なことを」 「ねー、見るだけだったらいいじゃんツッキー!邪魔もしないようにするからさ」 今、用事があるとかでこの場に居ない山口を心の中で咎める。山口は僕とみょうじをくっつけようと陰で何かしら動いていることは知っていた。山口は僕のことになると、大袈裟なのだ。僕がみょうじのことを好きだと悟ったらしい山口は、今の状況のように僕とみょうじを度々二人きりにする。そして必ずツッキー頑張って!と親指を立てていくのだから腹立たしい。僕に何を頑張れと? まあ、山口のことは嫌いではないし、何かキッカケがなければ素直じゃない僕と何にも気付かないみょうじの関係はいつまで経っても平行線のままだと分かっているので、お節介な山口の気遣いは有難いのかもしれない。そんな山口の細やかな気遣いを僕は随分無駄にしてきた。悪いな、と思うけどそれすら言えない。 「じゃあ、ツッキーじゃなくて忠を見に行くから、行ってもいい?」 「…だったら僕に聞いてどうすんの」 「ああそうか、じゃあ、忠が良いって言ったら見に行ってもいい?」 「だから、何で僕に聞くの?山口見るんだったら僕に許可取る意味ないよね」 「うー…ツッキーのばか」 「は?」 もどかしげに頭を抱えるみょうじにバカはそっちでしょ、と返しておく。山口を見に行くなんて気に入らないけど、それを僕にいちいち聞いてくるのも更に気に入らない。みょうじが何を言いたいのか、さっぱり分からずイライラする。みょうじは俺を恨めしげにみると、ツッキーは頭良いけど女心は分からないよね!と吐き捨てるように言った。 そんなもの分かるもんか。分かっていたら好きな子にそんな台詞を言われる状態にはなっていない。長年一緒に居て未だに友達止まりになんてなっていない。 「さっきから何なの?僕は女心なんて理解出来ないし、理解したくもないんだけど」 「…なんで分かんないのかなぁ?何で伝わらないんだろー、私、ツッキーのことこんなに好きなのに」 「………は?」 「あっ、言っちゃった」 今度は頭を抱えてしゃがみこんだみょうじに、僕も頭を抱えたくなる。どうしたものかと机に頬杖をついて彼女の旋毛を眺めていたら、小さな声で僕のことが好きだと聞こえて固まった。聞き間違いかと思ったけど、彼女の顔は赤く口許を抑えてはっきりと言ってしまったと発言した。ということは、僕の聞き間違いでもなんでもなく、みょうじは僕を好きなのだ。段々と彼女の言葉が脳に浸透していく。 「あ、あの…ツッキー、今のは…その…」 「僕は…」 「え?」 「僕は…嫌いじゃない」 僕も好きだよ、と言えれば良いのに精一杯口に出した言葉は、何とも素っ気ない一言だった。嫌いじゃないけど、好きでもない。と捉えられたらどうしようと、後から不安に思ったけど彼女の顔はみるみるうちに真っ赤になったので要らぬ心配だったようだ。 「つ、ツッキー!わ、私ツッキーの彼女になってもいい?」 「か、勝手にすれば?」 はんたいことばの愛情表現 僕がもう少し大人になったら、彼女にちゃんと好きだと言えるようになりたい。 |