なんとなく、それがはじまりだった。
なんとなく今日は蛍くんに会いたくて。なんとなく教室を覗いてみた。けどそんなことしなきゃよかった。
目の前で起きていることは間違いなくげんじつで。寝ぼけてるわけでも頭がおかしくなったわけでもない。今起きていることが全て。
蛍くんは目を見開いてどうして、って顔をしてる。山口くんはとても不安そうにわたしと蛍くんを交互にみている。そしてクラスの人の目は全てこちらに注がれている。

「っ、」

注がれた視線と、現実に絶えられるほどのメンタルをわたしごときが持っているはずもなく、わたしは4組の教室を走り去った。まるで、悲劇のヒロインだ。それもヒロインが失恋する最悪のパターンのやつ。わたしはヒロインのような顔立ちではないけど、今の立ち位置はそこ以外ない。
走って走って、口の中に鉄の味が広がった。あ、これ、走り過ぎたときになるやつ。死にそうなくらい走るのもこれからの人生を大事なあの人以外と過ごすことになりそうな今も辛い。
走るのに疲れてゆっくり足を交互に振る速さを遅くした。着いた場所は第二体育館の裏だった。ちなみに自分がどうやってここまで来たのかは覚えていない。ついでに途中で教頭らしき人物が注意していた気がすることも覚えていないってことにしておこう。
日陰で湿っている地面で比較的乾いた場所に座る。さっきの情報を整理しよう。私はたまたま通りがかった1年4組を覗いてみた。4組には彼氏の蛍くんがいた。そしてその蛍くんは知らない女の子をぎゅうっと抱きしめていた。以上。
あれ、これってもしかして蛍くんは二股してたの?いや蛍くんのことだからぜったいにありえない。めんどくさいっていう。じゃあわたしとは本当は付き合ってなかったとか。ああ、一番有力的じゃん。
そもそもわたしと蛍くんはまともに彼氏彼女のようなことはやっていない。一緒に学校から帰るのだって蛍くんは毎日遅くまでバレー部の練習をしているから帰宅部のわたしと時間が合うはずがない。それにバレー部の活動は活発でめったに休みがない。その貴重な休みのときにわざわざわたしと遊びに行って疲れられるわけにもいかないから誘ったりはしなかった。そしてそれに関して触れられることもなかった。それにあの抱きしめられていた子はバレー部のマネージャーさんだったはず。ということで、わたしは蛍くん、いや月島くんとは付き合ってなどいなかったのだ。全て、わたしの勘違いだったのだ。


◇◇◇


月島くんと連絡を取らなくなって一週間。特に変わったこともなく、ただただ時間が過ぎていった。ただ、蛍くんのことを月島くん、なんて他人行儀に呼ぶのが少し違和感を感じる。蛍くんはどうなのだろうか。
いつまでたっても音沙汰もなく時間は過ぎて行って、本当にわたしの勘違いだったことが確定になっていく。ああ、胸が苦しい。

「なまえ」
「………月島くん」

月島くんが私の教室のドアの前にいた。誰かを呼んでほしいのかな。そう思って近づくと、ぎゅ、と手をつかまれる。なんだろう、何か用なのかな。
何かを告げられることもなくひたすら手をつかんで歩いていく月島くん。どうしたんだろう、ほんとうに。思い当たる節は何もなくて、あるとすればわたしたちが付き合っていなかったという事実だけ。
そうしていきついた場所は、この間と同じ第二体育館の裏だった。

「ねえ。僕たち、付き合ってるんじゃないの?」
「え、」
「僕に告白してきたのは誰だよ。それを承諾したのは誰だと思ってんの」

ずい、月島くんの綺麗な顔が近づく。うそ、でしょ。わたしの勘違いじゃなかったの。

「そんなわけないデショ」
「っほんとに…?」

ていうか何でわたしの考えてることが分かったの、と聞けば声に出てたと言われた。え。今度からは注意しよう。
月島くん改め蛍くんは私に近づけていた顔をもっと近づけて、お互いの距離を0にした。そしてゆっくりと顔を離して一言。

「僕がこんなことをするの、君にだけだから」

それで、堰を切ったように涙があふれた。





(結局あの子誰だったの…?)
(部のマネージャー。ちなみに付き合ってもないし、クラスのやつらが勝手にあいつを押してきただけだから)
(そう、だったんだ…よかった)
(だから君は余計な心配しないで僕の隣にいればいい)
(っ!!)
((それは…反則だよ、蛍くん))


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