好いている相手の後ろの席というのは、幸せなのか不幸なのか。
眠気が膜のように教室を覆う歴史の授業にはいつも考える。
頭が沈んでいる姿勢が大半の中、まばらに残った真面目な生徒達。
その中の一人、目の前の背中をじっと見る。
退屈なのか、不意に左を向いて指先でペンを弄んでいた。
同じようにそちらを見やると、綺麗とは言い難い曇り空があった。
私の居る席は窓際の列ではあるけれど、一番後ろでも一番前でもなく、微妙な位置だ。
最も前には日吉若が居るのだから、一番前の席になったら教師との距離云々を差し引いても不都合になるには違いなかった。
つまらない。
彼が関わる事柄にさえ、他人事のようにしか考えられない自分は可愛げがないと思う。
他人事なのは、自分の存在から遠いからだ。
私の人生は他人事で溢れているが、この傍観者の距離を煩わしくもどかしいと思った相手は日吉若が初めてだった。
一番驚き戸惑っているのは自分の方で、この席が当たった時も特に思うことはなかった、と思う。
よく分からない。
自分が何を求めているかなんて分からないし、何をすべきかなんてもっと分からない。
持て余す感情は理解から程遠い。
もしかしたら私は自分の心さえも手放してしまっているのかもしれない。
身体には「心が得る感覚」の残滓だけが取り残されていて私を振り回す。
そう思えば納得できる。
眺めていた背中はいつの間にか窓から視線を戻し、板書を写していた。
自分も倣ってシャーペンを取る。
カリカリと文字を書く度に日吉若の髪がさらさら揺れて、つむじ近くの髪が前の方へ流れ落ちる。
きっと掬い上げるのが躊躇われるほどの綺麗な髪だ。
暫し見つめてからゆっくり息を吐く。
教師の声が単調に響く中、私の有象無象心情感情諸々を詰め込んだ溜め息は溶けて消えた。
たまに、私の抱える全てを彼にぶつけたら楽になれるのではと考える。
自身でさえ理解に苦しむ感情、言葉にならない声、文字、呟き、想いの果て。
正直日吉若がそれを聞いて、尚且つ受け止めてくれる可能性は皆無に等しいのでおそらく実行はしない。
教えてほしいとは思う。
私は何に振り回されて、何に歴史の授業を費やして、何を理解できずにいるのか。
答えは誰が知っているのだろう。
教えてもらったとして、多大な時間を費やしてきた私は今までの私で居られるのだろうか?
そもそも持ち合わせた語彙では私の感情の説明に足りないのではないか?
私の手元から離れて漂う心を捕まえて、形として取り出せたらどんなに楽だろう。
気持ちが逃げ出してしまわないように標本にして差し出せたら、見た人も納得してくれるのではないか。
ああ、あなたはこんなに悩んで苦しんだのねと。
そして私が探す答えをくれるなら、それより嬉しいことはない。
標本は胸に戻さず記念として飾っておくことにしよう。

ふと振り向いた日吉若が口を開いて、私に初めて話しかけた。


20105025
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