「…あめがふってる」

「え、ほんと?傘持ってないよ」


屋根の下から手を出してぽつりと言った日吉に、靴を履きながら答える。
なぜ人は見て分かるのに、雨が降るとつい手を差し出してしまうのだろうか。
まだ動かない日吉につられて昇降口の庇から顔を出す。
すると、日吉がくるりと振り向いたと同時にコン、と私の鼻先に何かが当たった。


「あいて、……何これ」

「飴だな」


小さくて丸い、見た目も可愛らしい飴玉が地面と日吉の手のひらの上にあった。
衝撃に引っ込めた顔をもう一度庇から覗かせると、ぱらぱらぱらぱらと絶え間なく色とりどりで形の様々な飴が、文字通り降っていた。
棒付きの飴や外国産らしきキャンデーまでもが、ぱらぱら降って積もって校庭を埋めていく。
なるほど、これは手を差し出したくもなる。


「なかなか面白い光景だけどさ、これ結構痛いよ。あの棒付きなんか地面に刺さってるじゃない」

「こんなおかしな事態は跡部さんの気まぐれか…もしくは」

「もしくは?」

「ただのメルヘンか」


手にした飴の包み紙を眺めながら日吉が楽しそうに答える。
下から間抜けに見上げていた私と向き合うように屈んだかと思うと、口に飴玉を押し込まれた。
レモンがすっぱい。


「止むのを待ってみるか、どうせだし飴でも食いながら」


確かに、外の光景を見る限り傘は役に立たなそうだ。
もう一つびりり、と包みを破いて日吉が自分の口へ放り込む。
一瞬見えたピンクは多分イチゴだ。
私もそっちが良かった。


「飴宿り、ですか?」

「それ、上手くないぞ」


隣に座り込んだ日吉と同じように手を伸ばしてみる。
小さな四角いチョコレートキャンデーが落ちてきた。
食べ物には困らないけど、これって止むのかなぁ。


       

      

         

     

        


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