昼休みにチャーハンのおにぎりを食べていた。 そうしたら、でかい背丈とのんびり屋な性格で見知った男がクラスの入り口でにへらと笑ってひらひら手を振っていた。 放っておくのもいけない気がするので来い来いと手招いたら、素直にすぐ側までやって来た。 よくもまあ、人の視線を集める男だこと。 クラスメイトの目線が彼の動きにつられて流れるのが少し面白い。 私の机に手をついて笑う様は黒い大きな犬のようだった。 「海、行かん?」 「新学期初日からサボリのお誘いですか」 「サボリじゃなかとよ、ただお前さんと出かけたかね」 「どっちにしろ私は半ドンだけれど、テニス部は午後から練習でしょ?」 「深く考えんとよかよか」 語尾を気怠く伸ばすような話し方で腕を引かれるものだから、早々に根負けしてついて行った。 いいのだろうか、これで。 そう考えていると廊下でテニス部の忍足くんを見かけた。 先を歩く上機嫌の千歳は気付いていない。 慌てたような忍足くんは引き留めてくれ!と目で訴えてきたけれど、無理だと仕草で謝った。 途端に項垂れる忍足くんになんだか申し訳ない。 きっと千歳を止めきれなかったことを責められるんだろうな。ごめんね。 「千歳」 「ん、なんね?」 「…いや、いいや」 既に靴を履き替えた千歳が私の鞄まで持って早く早くと急かすように見てくる。 忍足くんの話題を出すのは諦めた。 最寄り駅から電車に乗り込んで、適当な駅で降りてはまた線を乗り継いでいく。 千歳の気まぐれに目的地なんてないのだ。 きっと海ではないどこかに辿り着くんだろうな、と思いつつ隣の千歳を見やると窓の外を眺めていた。 ふと視線を外したかと思えば、千歳が大きな手のひらで頭を撫でてきた。 「なに?」 「睡眠は大事けん、寝るとよかよ」 今日は新学期初日。 課題続きであまり寝ていないのをすっかり見透かされていたようだ。 その手のひらで頭を肩へと寄りかからせられた。 「着いたら、ちゃんと起こしてよね」 千歳は分かっているという風に笑ったけれど、私たちは二人揃って寝てしまい、結局見知らぬ田舎の終点まで電車で揺られてしまう羽目になった。 日はだんだんと短くなっていて、起きた頃にはすっかり暗くなってしまっていた。 私が口約束を破ったと怒っても彼は「まあ、気にせんとよかよか」と流すばかりで。 田舎の澄んだ空にぽっかりと浮かぶ満月は妙に綺麗で、よく記憶に残っている。 月をたずねて三千里 まだ月を見ていたいとごねる千歳を引っ張って帰るのは大変だったけれど、何だかんだ付き合ってしまう辺り私も満更ではないのだと思う。 夏休みを一日だけ延長した、どこかきらきらした思い出。 20110824 |