とてもとても面倒臭がりな自分がくじ引きで実行委員になってしまった。
と、友人に言えば。


「ま、精々頑張り」


鼻で笑いながら言われた。
お前それ絶対頑張れとか思ってないだろこのツンツンピアス不良、と言う前にそいつは居なくなっていた。
ので、私は仕事を放り出して奴を捜索中である。


「ざっいっぜーん!」

「やかましいわ、このアホ」


居るような気がした中庭の茂みを覗き込んだ瞬間に腹を蹴られた。
ジャージだから良かったものの制服に蹴った跡付いたらどうしてくれる、と視線を送ったらヘッドフォンを頭にしたままの財前は無表情のまま答える。


「どうもせえへんわ、何をしてやる義理もないし」

「くっそ、実行委員権限でサボリ報告してやる」

「ああ、実行委員は風紀と美化の係兼任やったか。おつかれ」


ばしっと顔に投げつけられたタオルで遠慮なく汗を拭ってやる。
脇にヘッドフォンを置いた財前は紙パック牛乳を啜りながらチョコプレッツェルの菓子を囓っていた。


「あ、ちょーだい」

「やらんわ」

「なんでやねん!」

「お前なんでやねんって言うとけばええ思うてるやろ。関西弁舐めんな」


この転校生、と言いつつ財前は差し出した手にしっぺをしてきた。痛い。
転校生といっても四天宝寺に来たのは一年近く前なのに、未だに財前はこう呼んでくることがある。
あまり除け者扱いはしてほしくないけれど、財前に遠慮を求めるのは無謀だと思う。
それなら私が彼の性質に慣れてしまった方が早い。
今までもそうやって友達やってきたし。


「はあ、方言難しい」

「そう簡単には馴染まんやろ。数年そこらで身に染み付いた言葉や習慣は変わらんのと一緒や」

「あー、走ったら疲れた。隣座るよ」


座り込んで見上げると、校舎の暗い灰色と綺麗な青い空の境界線が真上に見える。
絶え間なく校舎のそこかしこからざわめきが聞こえるこの時期は、嫌いじゃない。
普段も騒がしい学校中がより浮かれて各々の作業に精を出す文化祭。
ごめんねサボってて。
雰囲気は好きなんだけど、自分の仕事は残念ながらそこに含まれてないんだ。


「財前のクラスは?何やんの?」

「模擬店。やけど分担きっちり決まっとるし、俺はテニス部の仕事言うて抜け出した」

「え、それ怒るんじゃないの部長さん」

「部活の方で仕事あるのはほんま。出てへんだけ」

「わーますます不良だ」


不良とか古いわと私を小突いた彼は、菓子の空き箱とすっからかんの紙パックを手渡してきて立ち上がる。
ヘッドフォンを首に掛けた財前が金網をよじ登り始めて、その背中に声を掛けた。


「おーい、私ゴミ箱違う」

「準備日は出席確認が朝だけやったやろ、実行委員」

「ねえ聞いてる?私もついて行きたいんだけど」


ガシャ、と金網の耳障りな音が止んで財前が振り向く。
好きにしろと目で言われたのが分かったので、急いで潰した紙パックを菓子の箱に詰める。
それをポケットへ放り込んで私もひんやりした金網に手を掛けた。
ジャージのポケットって大きいからお得だよね。
見上げた先の財前の奥、高くて遠い青空が眩しい。


「私さ、係決めのさあジャンケンやるぞって時になってジャンケンはなしなーとか言い出す先生が嫌いなんだ」

「俺も。そや、お前制服はどうするん」

「終わった頃に取りに戻る」

「そん時はついてったるわ」

「あんがと」


制服の財前の横にジャージの肩を並べて、私たちは走り出した。
じゃあね文化祭、次会うのは当日になるかな。
私は空の下で財前と逢い引きだ、羨ましいだろ!


20100822
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