「みんな、私の話を聞いてくれないの。きっと信じられないんだよね」 「そうか」 「蓮二だけだよ。ちゃんと聞いてくれるのは」 ありがとうと言って笑った彼女は俺の隣に腰掛けて足をゆらゆら揺らしている。 普通なら見えないものが見える彼女。 彼女は、よく笑う。 「ほら、あの木」 「冬だから葉はついていないな」 「ふふ、蓮二にはそう見えるんだね」 「何か見えるのか?」 「白い花が咲いてるのよ。とても綺麗な花」 「そうか、見てみたいな」 「本当に、蓮二にも見せてあげられたらいいのに」 彼女が手のひらを空に伸ばす。 その小さな手の上には白い花びらが乗っているのだろうか。 確かめる術はない。 俺と彼女では見る世界があまりに違っている。 (そう言い聞かせて、俺は逃げているだけか) 他人、ましてや彼女には相談できないことがある。 けれども一人で考えたくないという気持ちもある。 結局、俺は現状に甘んじることしかできない。 「名前」 「なに?」 「手を、繋いでもいいか」 俺の言葉に彼女は幸せそうに手を重ねてきた。 こんな日がいつまでも続くなんて思ってはいないけれど。 出来ればこの手に捕まえておきたいと思う。 泡沫の夢を君と視る 20100225 居ないはずの君が笑う |