夜の風に誘われるように、外に出たくなった。
部屋着のまま支度をしていると飼っている猫がすり寄って来た。
一人と一匹で家を出ると、最近は変な人が多いんだから早く帰りなさいって声が背中に掛かった。
家の近くの砂利道を歩く。
時々吹く風が心地良い。
昔から、夜の外出が好きだった。
妙に心が浮かれるこの感じ。
歩きながら、猫が足に頭を擦り付けてきた。
寒いのかと思って手を伸ばすと、ぴょんと私の腕の中に収まる。
あったかいなぁ。


「にゃお」


頭に頬ずりをすると嫌そうな声を出された。
抱っこされているのに偉そうだ。
ふてぶてしい態度にあるクラスメイトを思い出して小さく笑う。
ふと、道の曲がり角の向こうから足音が聞こえてきた。
変な人が多いんだから、という母親の言葉を思い出して腕に力を込めると猫が暴れる。


「あ、」

「…名字?」


日吉だ。
怪訝そうな彼は私と猫を見比べた後に「何やってんだ」みたいな視線を向けてきた。
沈黙が続く空間の中、猫が私の腕の中から飛び降りた。


「…猫、どっか行ったぞ」

「あ、ええと…多分先に家に帰ったから、大丈夫」

「そうか」

「…………」

「…………」


再び続く沈黙。
道の真ん中で向かい合っているのは気まずい。
このまま背を向けてはいさようなら、という訳にもいかないだろう。
…本当は、折角会えた日吉ともっと話したかったというのが本心なのだけれど。


「日吉は部活帰り?」

「ああ。お前は?」

「……月が綺麗だったので」


あああ、絶対変な奴だと思われた、今。
月?と私の言葉を繰り返した日吉は空を見上げる。
サラサラとした髪が月の光を受けて綺麗。


「そういえば、十五夜だったな」


ふと日吉が薄く微笑んだ。
一瞬で元の無表情に戻ったけど、私は見逃さなかった。
視線を戻した日吉が私をじとっと眺める。


「…それにしても、こんな時間にフラフラ出歩くか、普通」

「あ、はは…そうだよね」

「お前の家からじゃ見えないのかよ」

「生憎、周りの建物が邪魔で」

「…俺の家からは綺麗に見える」


え、と思わず聞き返すと広い縁側があるから、と呟いて日吉が顔を逸らした。
お家自慢?と首を傾げていると、日吉が私の横を通り過ぎて歩き出す。
それをただ見つめていると、ふと立ち止まった日吉が不機嫌そうに振り返った。
不機嫌だけど、頬が赤かった。


「…帰らないのかよ、置いてくぞ」


送ってくれた日吉は「一日遅れでいいなら、月見しに来ればいい」とよく分からないお誘いの言葉をくれた。


二人を繋げた十六夜



20091004
一日遅れたお月見の話
日吉は月や秋が好きそう
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