どんな人が好きなの、と訊いてみれば少し変わった答えが返ってきた。 「優しくない人がいいわ」 その言葉を頭の中で繰り返してみて、けれども理解が足らないから俺は首を傾げてどういう意味かな、と呟いた。 すると彼女は俺に視線を向けた。 並んで歩く帰り道はとても静かだ。 「優しい人が好きと答える人は、自分が優しくないから他人に優しさを求めるんですって。どこかで聞いたわ」 「へえ」 「人に優しくないと判断されてしまったら私の沽券に関わるから、こう答えることにしているの」 「そう…」 やはり彼女は反骨的な人間なんだなと思う。 特に批判もしないけれど。 きっと女子の間でさっきと同じ答えをして、その場の空気を冷やしたって構わないのだ。 彼女の哲学さえ侵されない限りは。 「優しくない人、かぁ。どうすればなれるかな」 「あら、心配しなくても平気よ」 「え?」 「幸村くんは十分優しくないわ」 「そうかな。ありがとう」 戯れのように繰り返す、何かが可笑しい言葉たち。 褒められたのか貶されたのか、礼を言うべき場面かどうかも定かではない。 だけれどこんな曖昧な、何も考えずに言葉を流すような会話はとても楽なのだ。 そうして俺は、無遠慮で成り立っている彼女が好きなのだから。 可笑しいって、笑うかい? 20101030 |