幸村くんは、とても綺麗な人だ。
ふわふわと風に揺れる髪も凛として響く澄んだ声も真っ白い、太陽に晒されない肌も。
幸村くんが長いこと入院していた事実も手伝ってか、彼のイメージはまっさらな白だった。
真っ白な彼が白い床と壁に囲まれた病室に居る様子を想像した。
溶けてしまいそう、そんな風に思った。
彼の纏う空気は柔らかでいて儚いものだと、その頃は信じてやまなかったのだ。

彼が庭園の剪定をしている姿を見かけたことがある。
退院した幸村くんはテニス部の部長として復帰し、その役割を立派に務めていた。
以前より日焼けした幸村くんは生命の輝きを強く放っている気がして、私は意外に思った。
要は偏見だったのだ。
病気だったから、弱いと。儚いと。
それでも愛でるように花弁を撫でている幸村くんは、やはり脆さを併せ持つ綺麗さを感じさせる人だった。
きっと幸村くんが花だったなら、それはそれは綺麗な花なのだろう。
そんな下らないことを考えてしまって、花の色は白かな、と想像を遊ばせている内に幸村くんが立ち上がった。
花壇に植わった色とりどりの花の海を見渡す彼は笑っていた。
どうして、彼は消えてしまいそうに微笑むのだろう。


「幸村くんが育てた花は、とても綺麗ね」


ぽろりと零れた私の言葉に幸村くんが振り向く。
いきなり話しかけられたことに対し、さして驚いた素振りも見せず彼はにこりと微笑んだ。


「ふふ、そうかな。嬉しいよ」


その笑顔に気が緩んだ私はつい、言った。
常々思っていたことを。


「幸村くんは、とても綺麗な人ね」


ふ、と幸村くんは笑うのを止めた。
気付いた時にはもう遅かった。
彼の纏う空気が、変わっている。


「…そんなことはないよ」


やはり彼は笑ってくれたけれど、知ってしまった。
彼は弱くも儚くもない。
私と彼の間の距離を超えて凛と響いた声は、私を締めつけた。
強い人だと、思った。
白くなんかない、例えるなら、そう。
風に遊ぶ彼の髪のような、鮮やかに色濃く残る藍色。
幸村くんが身に纏う空気は鮮烈な衝撃を私に与えていた。


哀色の瞳を持つ人



20091105
綺麗より、強くありたいよ
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