「日吉――!日吉ひよ、ぎゃっ!」


ずべっ、なんて現実じゃなかなか聞けない音だよな、なんて暢気に思いつつ名を連呼されていた男子は小さな女子に歩み寄る。


「すごいですね、先輩。これで今月入って八回目の転倒です」

「え、すごい!?」

「はいはい、すごいから膝出して下さい。血が出てますよ」


目を輝かせる少女に溜め息を吐きつつ、日吉はいつものように鞄から消毒液を出した。


「う、本当だ…いたた、なんか急に痛い!」

「意識するからですよ。はい、終わりました」

「ありがとー、日吉」

「いえ別に。先輩、行ってよし」

「は?」

「行ってよしって言ったんです」

「何それ」

「先輩は毎日俺に手当てをされに来てるんでしょう?今日の治療は終わったんで行っていいんですよ」

「ち、違うよ日吉!私は日吉に会いに来てるのであって怪我をしに来てる訳じゃ…」

「じゃあ毎回転ぶのは何故ですか」

「そこに段差があるから」

「駄目だこの人」


ちなみに日吉の隣には鳳が居るのだが、彼は二人のやり取りを見つつ「仲良しだなぁ」とほわほわ笑っている。
周りの生徒は遠巻きに見ながらも漫才のような会話に「そこはツッコミしろよ!」とか思っている。


「で、本当の用件は何ですか」

「今日こそは!日吉に好きと言わせるまで帰らない!」

「好きですよ」

「ほんと!?」

「ぬれせんが」

「知ってるよ、日吉の好物でしょ!じゃなくて、」

「先輩が好きです。これでいいですか?」

「ひ、日吉…」

「まあ、嘘ですけどね」

「なんだと!」

「というのは嘘で実はそれも嘘でやっぱりそれも嘘でぶっちゃけそれも嘘です」

「…わ、訳分かんない」

「脳が足りてないですね」

「いいよ!いいよ!嘘つき日吉なんか知らない!じゃあねまた明日!」

「あ、先輩スカートめくれてますよ」

「もう騙されないぞバカ日吉!でも好きだ!」


大声で叫びながら去って行く少女を一通り見送った後にふう、と溜め息を再び吐いた日吉は何事もなかったように鳳と会話を始める。
毎日のこのやり取りに一番疲れているのは他でもない周りのクラスメイト達だった。


猪突猛進をかわす方法



「おい」

「何さ跡部!今私は気が立って」

「スカートめくれて下着見えてんぞ」

「……うあ―――!!」

「な、なんで泣く!俺様が悪いみたいじゃねぇか!」



20091029
一番の被害者は、跡部。
ちょたは遊びに来てたんです。
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