「隣のクラスの日吉くんって、あんたのこと好きらしいよ」


天地がひっくり返るような友人の台詞に私は食べていた焼きそばパンを落とした。
汚いとか勿体ないとか私を非難する友人に構わず、身を乗り出す。


「…誰が何だって?」

「だから、日吉くんが」

「その日吉くんってテニス部の日吉くんだよね、下剋上とか演武テニスとか言ってる次期部長候補の」

「なんだ、詳しいじゃない」

「その日吉くんが…?」

「あんたを好きって「情報源どこだ!!」


立ち上がった私にうるさいとか目立つとか文句を垂れる友人。
減らず口ばかりだなホント。


「噂なんだから気にすることでもないでしょ」

「言っておいて今更…」

「火のない所に煙は立たないとも言うけど」

「だからどっち!」


楽しそうに笑う友人を無視することにして、微妙な空腹感を埋めるためにカバンを漁る。
さっき落としたパンが今になって惜しいと思った。
チョコの袋の封を切ろうとした時、教室内がいきなり静かになった。


「名字名前は居るか」


はい?
呼ばれた名前に振り向くとドアの所に日吉くんが立っている。
日吉くんの、そしてクラス中の視線が私に向いてる。
そんな、いや、まさか。
「早く行きなさいよ」と急かされて仕方なく席を立つ。


「こ、こんにちは」

「…………」


無視されたよ!
気まずくなって下を向くといきなり右手を掴まれてびっくりした。
何がびっくりって、その手つきがすごく優しかった。


「これ、やる」

「…へ?」

「じゃあな」


私の手に綺麗な橙色を置いて、日吉くんは隣のクラスに戻ってしまった。
話したの今日が初めてだよね、なんで私の好物を知ってるの、言いたいことは沢山あったけれど、日吉くんがくれたみかんはとても甘くて美味しかったから気にしないことにした。
それから毎日、日吉くんは私にみかんを届けてくれる。


初恋はみかん色



20091025
餌付けする日吉
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