今日は家庭科で和食のおかずを作ることになった。
炊きたての白米に塩鮭を焼いたもの、お味噌汁、玉子焼き。
先生は一般市民の味って言ったけど、私の家ではこれが普通ですよ。
テニス部部長さんと同じ家柄ではないです。
味噌を溶かすとふわりといい香りが漂う。
箸を動かしながら、テーブルへ目を向けるとふわふわの金髪が揺れていた。


「芥川くん、実習終わっちゃうよー」

「んー…」


さっきから先生が怖い顔してこっち見てるんですけど。
家庭科の、というか他の教科も含めて芥川くんの成績が気になるところだ。
着る途中で力尽きたらしい彼は寝顔をエプロンから半分だけ覗かせている。
なんか、芥川くんって憎めない。
身長なんか私と同じくらいだし、起きてる時は子犬みたいに元気だし。
愛嬌があるってこういう人のことを言うのかな。


「悪いな、ジロー起こしてやってくれ。後は俺がやっとくから」

「あ、うん。ありがとう、宍戸くん」


三角巾をピシッと頭に巻いた宍戸くんは凛々しい目をしていて格好良い。
…視線の先は魚を焼いてるグリルだけど。
私は少し離れたテーブルへ向かって歩いて行った。


「芥川くん、もう完成間際だよ。せめて食器並べるとか」


した方がいいよ、と言う前に私の手を芥川くんが柔らかく握った。
寝ぼけ眼の芥川くんはごしごし目を擦りながら「かーさん…?」と呟いた。


「………あれー?」

「お、おはよう」

「なんで俺、手ぇ握ってんの…?」


私の顔と掴んだ手を交互に見やる芥川くんはまだ眠そうだ。
少ししてから、瞼が心持ち上に持ち上がったと思うと、私の手はパッと離された。


「恥ずかCー。俺、中学生にもなって間違えて。味噌汁の匂いしたから、つい」

「そ、そんなことないよ…」


私が気恥ずかしさに苛まれる一方、芥川くんは頭を掻いてへらり、と笑った。
行き先のない手のひらをもう片方の手で包んで、息を吐き出す。
自分ばかり照れてなんだかなぁ、と思っていると芥川くんがニカッと笑って口を開いた。


「でも、可愛いお嫁さんに見えた!」


手どころか、顔まで熱くなった。


天然ひまわりに御注意



〜20100410
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