猫の気まぐれは狙って行われているような気がしてならない。
目の前で鳴いてベッドを飛び下りた白い猫を眺めつつ欠伸をする。
気怠い身体を起こすと急かすような鳴き声が自分を呼ぶ。


「わかっとる…待ちんしゃい」


自分が水を飲むついでに牛乳をやろうとしてはたと気付く。
昔も同じことをしようとして叱られたことがあった。
すっかり世話が板についた自分に苦笑しながら水を注いだ。


「うまいか」


にゃあと答えるように猫が鳴く。
この家に住む人間は自分の一人きりなのに、話し相手には困ったことがない。
自分に寄り添い歩くこの猫が人の言語が判るような素振りを見せるからだ。


「お前さんの方が、俺よりずっと人間のようじゃの」


すり寄せてくる頭を撫でながら呟く。
名前が自分の隣に居た頃は全く懐かなかったのに、彼女が居なくなってしまってから猫はよく甘えてくるようになった。
猫でありながら自分を慰めているのか、自身が寂しいだけか。
どちらかは知らないが、猫が生活の中心になっているのは確かだった。
餌をやったら自分も食事をし、猫が眠りに就いたら自らも布団に潜り込んだ。


「まるで…名前が」


まだ近くに居るように感じて。
口に出さずに終わった台詞に猫が顔を上げる。
続きを言ってしまえと。
いい加減認めてしまえと言うように。


「……おまんは黙っとれ」


思い知ることの方が多かった。
名前は居ないのに、彼女の痕跡ばかりが自分を苦しめる。
この白猫が忘れさせない。
忘れたくないのは確かだ。
でも思い知るのはもう十分だ。
右手は勝手に猫を撫でているというのに。


「寂しい、な」


猫は返事をすることなく、欠伸をしていた。


「墓参りにでも行くかの」


そう口にした途端に猫は離れて行った。
彼女の死を認めたくないのは同じだというのに、きっと一人じゃ生きていけないのは自分だけだ。


こびりついた白



20100222
あの日彼女が着ていた服も、確か
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