気遣うような態度と言葉が苦手だった。 確かに俺は難病に罹っていたし、その事実を軽く扱われたり蔑ろにされるのは好きじゃない。 かといって、過去に患った病気にいつまでも縛られる俺じゃない。 奇跡の復活を果たした部長だとか、そんな肩書きはどうでもいい。 俺が目指すのは立海の勝利一つで、だから周りの気遣いや言葉は特に必要とは思わなかった。 「おはよう、真田」 「幸村…久しぶりだな。もういいのか?」 「うん。落ち着いたから段々学校にも来るようにするよ」 「…そうか」 校門で会った真田が少し和らいだ表情を見せる。 彼にも随分と苦労をかけてしまった。 それでも仲間の気遣いは他よりずっと嬉しく思える。 ただ、他の生徒とは多少のぎこちなさがあるのかと思うと若干気落ちする。 やはり厄介な気持ちは拭い去れない。 「そうだ、真田達こそ調子はどうだい?」 「全く問題ない。むしろ扱き足りないと言ってもいいだろう」 「ふふ、程々にね」 相変わらずなようで何よりだ。 真田と歩きながら、元気か大丈夫かと口々に訊いてくるクラスメイト達に平気だと受け答えをする。 早くテニスをしたい。 学校に来ると一気にその気持ちが大きくなった。 「幸村くん!」 「わ、」 幸村の「ゆ」の時点で背中に軽い衝撃を感じて少しよろけてしまった。 振り返ると俺より大分低い位置に満面の笑みがあった。 「おはよう、名字さん」 「おはよう!久しぶりだね、幸村くんが居なくて寂しかったんだよー」 「名字!お前はもう少し気遣いというものを覚えろ!」 「いいよ、真田」 真田が怒鳴りつけた途端、名字さんは俺の後ろに隠れる。 俺に飛びついてきた時もそうだけれど、大した度胸だと思う。 そんな彼女の様子も相変わらずで、自然と笑みがこぼれた。 「大丈夫だよ、名字さん。真田は顔怖いけどいきなり噛みついたりしないから」 「本当?」 「な…っ、幸村!」 「ふふ。ありがとう、名字さん」 「え…何が?」 「気にしなくていい。俺が言いたくなっただけ」 「そう?じゃあ、どういたしまして」 素直な名字さんを見て、周りがこんな子ばかりだったら退屈しないな、なんて思った。 それも今となっては随分前の出来事だ。 「精市」 「ん、何?」 「いや、ボーっとしてたから」 「名前は今も昔も無神経だなぁって思っただけだよ」 「出た、精市の毒舌」 「褒めてるんだよ。ありがとう、名前」 「…なんか、精市は唐突にお礼を言うよね」 「あれ、覚えてたんだ。嬉しいものだね」 「意味分かんないよ、精市」 きっと支えになる 20100222 ありふれてはいないもの |