「大変だったね、日吉」

「ええ、本当に。疲れました」


朝から愉快な先輩達に御祝いという名の追いかけっこをお見舞いされた日吉は一つ欠伸をする。
マネージャーである名前も朝練そっちのけで始まった大騒ぎには口を開けることしか出来なかった。
主に向日とジローが計画した御祝いパーティーは文字通りハチャメチャで、みんなに飛びつかれて埋もれてしまった日吉を救出したり本人よりテンションが高いちびっ子先輩コンビを宥めたりと、とにかく大変だったのだ。
結局跡部の練習しろ!という怒声で騒動は幕を閉じたのだが、日吉は昼休みになった今でも腑に落ちないような顔をしていた。


「どうしたの?まだ不機嫌?結構嬉しそうだったのに」

「………先輩、」


頭上に広がる晴天に似合わない、落ち込んだ声音で呼ばれた名前は不思議そうな顔をする。
いつものように髪をくしゃくしゃと撫でてくる名前の手をやんわりと押し返した日吉の表情は浮かない。
暫しの沈黙の後、言いにくそうにぽつりと言葉が落とされた。


「俺に何か、言うことありませんか」


目を伏せた日吉はそのまま黙り込む。
少しだけきょとんとした名前の表情は一瞬で笑顔に戻る。
成程、彼の性格からして催促は難しかったに違いないと心の中で呟く。


「誕生日おめでとう、日吉」

「15人目」

「ん?」

「…ちょっと遅いんじゃないんですか」


拗ねたような表情を続ける日吉に名前は首を傾げる。


「俺に祝いの言葉をくれたのは、先輩で15人目です。家族と先輩方、鳳と樺地と監督を合わせて14人なので」

「…ふはっ」

「………何が可笑しいんですか…」


何って、子供みたいに拗ねる日吉が可笑しくて可愛いのだと言いたい気持ちを抑えつける。
肩を震わせて笑う名前にますます顔を顰める日吉がもういいです、とそっぽを向いた。


「ごめんね、日吉。言いそびれてただけなんだよ」

「…別に、気にしてないです」

「ごめんってば」

「許しません」


言っていることが矛盾している。
完全に機嫌を損ねたらしい日吉に苦笑いを浮かべ、名前は提案をする。


「分かった分かった。先輩が帰りに何か奢ってあげるから。それで許してよ」

「別に奢らなくていいですよ、一緒に帰るだけで」

「へっ?」

「送り狼にならないと断言は出来ませんけど、ね」


ふと振り向いた日吉が意地悪く笑って名前の手を引く。
今日という一日はこれからだと、まだ高い陽が物語っていた。


何も要らない、一人だけ貰うから



20091205
日吉ハピバ!
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