「柳せんぱぁぁあい!」 「柳さぁぁあん!」 テニス部の参謀こと柳蓮二は移動授業の為に荷物を整理していた。 が、扉を出た所でまとわりついてくる大小二人の姿。 長身の彼といえども二人掛かりで抱きつかれては身動きが出来ない。 「…赤也と名前か」 「柳先輩柳先輩!ヤバいんスよ、また英語が!!」 「数学が分かりません柳さん!分からないところが分かりません!」 「落ち着け、二人共」 手にしていた音楽の教科書でぺしん、と軽く頭を叩くと後輩二人は揃ってしょぼんと項垂れる。 その様子にやれやれと溜め息を吐きながら柳は二人を廊下の窓際へと連れて行く。 いくら何でも扉の前では通行の邪魔になる。 それに気付かない二人にやはり呆れつつ、柳は腕組みをして彼らを見下ろした。 「まったく…お前達はもう少し周りを見るべきだ」 「周り…?」 「あ、もしかして移動教室でした?」 「ああ。だが早めに出たからな、少しくらい話をしていても構わないだろう」 首を傾げる赤也に反して気遣いを見せた名前を柳が軽く撫でた。 名前がほわんとした笑みを見せるが、二人は別に特別な関係にある訳ではない。 実際柳も犬か小動物にするような気持ちで柔らかい髪を撫で続けた。 「柳先輩、ズルいっス!!」 突如上げられた赤也の声に柳と名前が顔を向ける。 叫んだものの、拗ねた表情で言葉を濁している赤也に柳が口を開く。 「…撫でてほしいのか?お前は髪が乱れるとか見下ろされた気になるとか言って嫌がるだろう」 「違いますよ!!あー、もう…」 ぐしゃぐしゃと自らの髪を掻き混ぜる赤也に名前が「なんで怒ってるの?」と声を掛ける。 僅かに顔を赤くした赤也は力なく名前の制服の袖を掴む。 「あー、」とか「くそ、」とか言いながら名前の袖を引っ張る赤也に、柳だけが成程という顔をした。 「赤也、英語は今日の部活後に見てやろう」 「げ…今日っスか」 「そうか、不満か」 「いいいいいや、ナンデモナイデス」 薄らと細い瞳を開いて微笑む柳に赤也が盛大にどもる。 だが、ぽんぽんと再び名前の頭を撫でた柳が言った台詞に赤也がギョッと目を剥いた。 「名前の数学は明日見てやろう。確か部活がなかったはずだからな」 「え、お休みなんて珍しいのに…いいんですか?」 「別に構わない」 「わーい!ありがとうございます!」 「お、俺も数学で分からないところがあるんスけどっ」 「…そうか、なら赤也も来るといい」 「お世話になりまっす!」 「赤也、もっと丁寧に頼みなよー」 「う、うっせーな!」 口喧嘩を始めた二人にやれやれと額を押さえた柳が、壁に掛かった時計に目をやる。 手の掛かる後輩のおかげで授業には遅れてしまいそうだ。 見てる方がもどかしい 「やべっ、チャイム鳴った!じゃあ柳先輩、また放課後…」 「赤也。」 「はい?」 「悔しいなら名前に教えられるよう勉学に励むことだ」 「い、嫌味っスか?」 「赤也、置いてくよー」 「あっ、待てよ名前!」 「見ていて微笑ましいが…ふむ、先は長そうだな」 20091130 最初は柳さん夢だった |