「あのさぁ、名前に物をあげるとしたら何がいいと思う?」


ミーティング中の部長の唐突な発言にレギュラー陣は目をぱちくりとさせる。
ただ一人、柳だけは狼狽える動作一つ見せずにノートへ何かを書き込んでいたが。


「これでいいんじゃね?」

「ブンちゃん…そりゃお前さんの食いかけのポッキーじゃろ」

「だって名前って菓子好きだった「幸村がすごい顔してこっち見てるぜよ」ごめん、真面目に考える」

「ふふ、いいよ。ブン太には最初から期待してないから」

「本当にすみませんでした」


幸村の絶対零度の微笑みにブン太が素で半泣きになっている一方、柳生が静かに口を開く。


「女性に贈り物ですか…やはりよく使うハンカチや文具品が良いのでは?」

「可愛いストラップとかどうっスか?」

「幸村が贈り物か…その気持ちがありゃ何でも喜ばれると思うぜ?」

「幸村、部長のお前がミーティング中にそのような発言をするなどたるんど「日々お世話になってるマネージャーに労いの意を示すんだよ?あれっ、まさか真面目な真田が反対するとは思わなかったなぁ」………」


今度は真田が石像のように黙り込んでしまった。
その様子に身震いをした赤也が柳に話を振る。


「や、柳先輩は何がいいと思います?」

「…そうだな」


パン、と綺麗な所作でノートを閉じた柳に真田を除く全員の視線が向く。
これ以上被害が広がる前に幸村を納得させる案を出してくれ!と大半はデータの達人に縋りたい一心の眼差しに柳がぽつりと答えた。


「テディベアが妥当だろうな」

「…………はっ?」


赤也の間の抜けた声がその場で話を聞いていた皆の困惑を代表して響く。
何故テディベア?
何故ここでメルヘン思考なんだ参謀。


「どういうことかな、蓮二」

「……先週買い物に付き合った時に、食い入るように見ていたからな。あまりに必死だから買ってやろうかと言ったが断られた」


それってデート…と言いかけた赤也の口を仁王が殴るような勢いで塞いだ。
バチーン、といい音がした。
後輩の不用意な発言のとばっちりは御免だと仁王の目が物語っている。
しかし仁王の制止も虚しく、にっこり笑った幸村の「赤也、後でグラウンド30周ね」という言葉に赤也は「鬼っスか!!」と泣き叫ぶ羽目になった。


「ふーん、蓮二と名前が二人で…へぇー、ふーん」

「…悪かったな、精市」

「え、何が?嫌だなぁ、まだ何も言ってないじゃないか」


目が笑っていない幸村に流石の参謀も冷や汗を流す。
言いたくなかったが、隠している方が後々恐ろしいと考えた結果だった。
予測は当たり、情報提供の褒美として柳はランニングの刑を免れた。
その時、(主に幸村の被害者達の嘆きで)騒然とする部室内にノックの音が響く。


「あの、もう結構時間経ってますけど…今日のメニューはどうしますか?」

「あ、名前。手を煩わせてごめんね、今日は赤也と真田とブン太以外はオフになったから」

「はい?」

「ちょ…っ、部長!?」

「はい赤也、走っておいで」

「ゆ、幸村…」

「幸村くん、それはないだろい!」

「ああもう、うるさいなぁ」


とてつもなく爽やかに言い放たれた台詞は二人を一瞬にして青ざめさせ、赤也の後を追わせることに成功した。


「じゃ、買い物に行こうか」

「え、あの、まだ仕事が…」

「三人が今日は代わってくれるって。ふふ、優しいよね」


まるでお姫様にするように幸村が名前の手を取る。
戸惑う名前を連れて意気揚々と部室を出る幸村に「シスコンも程々にしろよ」とは誰も口にすることが出来なかった。


部長の妹、兼マネージャー



20091124
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