2話


初対面からの1週間後、安室透の名義で借りている部屋にはスティンガーが来ていた。

ポアロのバイトから帰るとすでに部屋にいた。

おそらく鍵はピッキングで開けたのだろう。

ソファーに座ったスティンガーはバーボンのパソコンを弄っていた。

幸いにもこの部屋は組織教えていた部屋のため公安のデータなどは何も入れていないパソコンだったからよかった。

「この前はすみませんでした」

困った笑顔で謝る少年はこの前とは打って変わっておとなしく穏やかな雰囲気を醸し出している。

「やっとあの男を落とせたまではよかったんですが、薬を盛られちゃいまして…」

忘れてください、と言う彼に気にしないと答えるとどこか安心した顔をした。

「勝手に上がってごめんなさい。今日は任務の詳しいデータをお知らせしに…」

バーボンが戻ってくるまでに書かれてあったデータを見ながら説明を受ける。

わかりやすく、丁寧な説明だった。

「それから、ハッキングやデータのコピー予防のため少しパソコンを弄りました。どこかにデータを飛ばそうとしたりハッキングされたりするとその相手の情報が僕のところに飛んでくるようになってます。」

どうやら機械にも強いらしい。

これでは公安にデータを送ることはできない。

「そうですか、ありがとうございます」

余計なことを、と思いながらも笑顔で礼を言う。

何か飲み物を入れようとソファーから立つと彼の声に捕まえられた。

「この前から思ってたんですけど…」

「はい?」

「敬語、止めてくれませんか?僕、あなたより年下だし、組織に入ってからも入る前も僕に敬語なんて使う人いなかったから落ち着かないんです」

また、何かをしているのかパソコンを弄りながら言う。

「あ、あぁ、わかったよ」

この少年はバーボンと同じ情報収集が得意な探り屋だ。

仲良くしておいて損はない。

「ありがとうございます」

表情のない声で返すとスティンガーはパソコンを閉じた。

どうやら作業は終わったらしい。

「じゃあ僕はこれで、」

そっけない態度で部屋を後にしようとする。

「コーヒーくらい飲んでいきなよ」

ティーカップを見せると少し困った顔をする。

「この後別のターゲットと合わないといけないんです。一晩中一緒にいるから色々準備をしないといけなくて…」

気を使わせてしまってすみません、その言葉だけ残すと彼は部屋から出て行った。

一晩中一緒ということはおそらくそういうことなのだろう。

まだ10代の少年が組織のために体を売っている…

どうしてやることもできない自分に少し腹が立った。


  
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