▼ 17話
「…スティンガー」
ドアを開け声をかけると朝食の準備をしていたスティンガーの肩がビクッっと震えた。
どうやら相当嫌われているらしい。
「っ、ごめんなさい、もう僕出ていきます。鍵は玄関に吊ってあります。閉めてポストの中にでも入れておいてくださいっ」
俺の隣を通って玄関に行こうとするスティンガーの腕を掴む。
「まってっ、何に謝ってるのかはわからないけど謝るのは僕の方だよ」
一人分の朝食…
作ったら出ていくつもりだったのだろう。
「え、」
「昨日は君が嫌なことさせてしまってごめん、完全に僕のミスだ。本当にすまなかった」
頭を下げると頭上で動揺しているのが空気で分かった。
「ちが、僕がバーボン嫌がってるのに勝手にヤったからっ、ごめんなさいっ!でも、誰でもってわけじゃないっ…仕事ではするけど、昨日のはバーボンに楽になってもらいたくて、それで、無理矢理はダメだって思ったけど、薬辛いのは知ってるから、それでっ…」
必死に弁解しようとしている少年に自分たちの言っていることが食い違っていることに気づく。
彼はきっと自分が誰にでもそういうことをしていると思われたと思って謝っているのだ。
俺の拒絶はスティンガーに嫌な思いをさせたくなかったからなのだが、彼は俺が嫌がったと思ったのだろう。
「…スティンガー、ありがとう。分かってるよ、君がするの嫌なこと。だから謝りたかったんだ。君に嫌なことをさせてしまったこと。君のおかげで僕は楽になれたよ。ありがとう」
俯いてしまっているは少年の頭を撫でる。
お互い勘違いしていただけだった。
「…っ、ぅく」
「え、す、スティンガー?」
急に泣き出した彼にやっぱり嫌だったのかとあせる。
「…っ、」
どん、と胸に衝撃を受ける。
スティンガーが抱きついてきたのだ。
「よか、った、ぼく、バーボンにっ、きらわれたとおもった」
たどたどしい口調でいいながら涙を流す。
「…嫌わないよ。君は組織の中で僕が唯一信頼できる人だからね」
ふるえる背中をとんとんと叩きながら言う。
顔を上げた少年は目に涙を浮かべながら微笑んだ。
彼の悲しくない笑顔を見たのはこの時が初めてだった。
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