9話


すぐにまた眠りに落ちたスティンガーは本当に子供のようだ。

もうすぐ20歳で、ハニートラップを得意とする組織の人間には見えない。

(約10年前からやっているということは本当に犯罪じゃないか)

どんな人間でも組織の一員には手加減する気も気を許す気もなかったのだが、彼は年に似合わず子供っぽいところがあるし、どこか危なげでほって置けないのだ。

子供が頑張って背伸びしているようにしか見えない。

それが彼と2度目の対面の時に抱いた印象だった。

バーボンのベッドで眠る少年は昨日だけで2人の男の相手をしている。

2人目は薬のせいで仕方がなかったとはいえ、随分酷い状態でジンから引き取った。

酷い抱かれ方をしたのは一目瞭然だった。

(いくら年齢的に問題ないとはいえ、こんな儚げな少年に酷な事を…)

『こいつ部屋に連れてけ』

まともに服も着せぬままバーボンにスティンガーを押し付けジンは自分の部屋に戻っていった。

きちんと処理をしておかないと腹痛が酷いといつか聞いたことがあったからなぜ俺がと思いながらも処理をしてやった。

風呂にも入れてもらってなかったスティンガーを風呂に入れ不本意ながらも銀の長髪野郎のものを掻き出す。

スティンガーは身じろぎ眉を顰めたが、起きる様子はなかった。

風呂から出てよく考えたらスティンガーの部屋の場所を知らないことに気づき自分のベッドに寝かせた。

組織から与えられたこの部屋にはしょっちゅうは戻らない。

ベッドと最低限生活ができるよう風呂とトイレとキッチンだけの部屋。

持ち込んだパソコンではベルモットと電子メールのやり取りをしている。

彼を追い出さずもう一度寝かせたのは彼女のお願いがあったからでもある。

【スティンガーのこと頼むわね】

文の最後に付け足された文。

彼が組織に入った頃からの仲というからきっと彼女にとってスティンガーは本当に弟のような存在なのだろう。

そもそもスティンガーが1人でハニートラップを仕掛けに行っている事をバーボンに言ったのは彼女だ。

まぁ、今回あの場所にいたのは別の理由なのだが…

(彼の持つ情報を聞き出そうと思っていたのにそれどころじゃなかったな…)

明らかに何か盛られた様子で出てきた少年を放置できるほど冷酷な人間ではない。

どこに行く?と聞いてジンを指名するとは思わなかったがあの様子だとしょっちゅう体を重ねているのだろう。

ふと、ベッドで眠る少年を見ると目元が濡れている。

「?」

(涙?)

悪夢でも見ているのか起こそうとするとスティンガーが飛び起きた。

「っ!」

夢と現実の区別がついていないのか、体が痛むのか、それとも両方なのかスティンガーは息を詰める。

「…スティンガー?」

声をかけるも返事がない。

何かに脅えるように、痛みをこらえるように自分の体を抱いている。

「……っ、な………で、」

何かを呟いているようだが声が掠れているとの声量がないのとで全く聞き取れない。

どうしたものかと困っていると俯いていたスティンガーが不意に顔を上げた。

「…バ…ぼ…」

掠れた声で名前を呼ばれたことは分かった。

「なんだい?」

ベッドに腰掛けスティンガーの口元に耳を近付ける。

「っ、ごめ、な、さ」

耳元で悲しそうな苦しそうな雰囲気まとった掠れ声がする。

「何がだい?」

スティンガーを顔を見て問う。

その時気づいたが、スティンガーのスティンガーの瞳は今にも泣きそうな色を帯びていた。

「っ、…か、だ……べっ、ど」

聞き取れた単語は身体とベッド。

どうやらさっき起きた時よりも頭が覚醒して自分の状況が把握できたらしい。

ジンにはいつもほっておかれるのだろう。

(ベルモットのメールとジンの態度から把握した)

ベルモットがいないこととバーボンの部屋にいることで自分の身体を清めた相手がわかったらしい。

「謝らなくてもいいよ。それより大丈夫かい?随分辛そうだけど…」

背中を支えてやりながら問うが、びくっ、と身体を強張らせただけで何も言わず首を振る


「っ、ぼ、く…か、えり、ま、めいわく…ごめ、なさ…」

身体を無理やり動かしベッドから出ようとするも次の瞬間には俺の方に倒れこんできた。

うまく力が入らなかったのだろう。

辛そうに顔を歪めている。

「そんな身体じゃ無理だよ。それに迷惑だなんて思ってない。君は1人で任務を成功させたんだ。今日くらい休んだって誰も文句は言わない。」

きっと彼はバーボンに処理をさせたことに罪悪感を抱いているのだろうがその件に関して悪いのはジンだ。

スティンガーが謝る必要はない。

動けなくなっている少年を寝転がす。

眉をハの字にした少年は何か言いたそうにこちらを見る。

不安や後悔、罪悪感が混じった瞳で…

「そんな顔しないで。大丈夫、僕は君のこと心配はしてるけど軽蔑とかはしてないから。それより色々しちゃってごめんね?勝手に触られるの嫌かなって思ったんだけどほって置いたらお腹が痛くなるって聞いたから…」

俺の言葉に目を大きく開き、それから首を振る。

「あ、りがと、ござ、…ます」

申し訳なさそうな顔で謝るスティンガーが可哀想になった。

彼の過去が気になったが今はまだ聞く時期ではない。

ただ、わかったことがあった。

スティンガーは人に迷惑をかけることを異常なほど嫌がる。

特に性に関しては…



  
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