土井半助先生には、人間として憧れている。フリーのプロ忍者と言えどもまだ十八の私は至らぬ点も多い。父上も母上も腕の立つ人だから、私の駄目なところも目立つのだが。しかし今のご時世恵まれた、と言えるくらいの家庭に産まれた私は幸せだった。少なくとも先生と比べれば。(比べる、なんて失礼かとは思うが人と比べてしまうのが人としての性であった。)(それに加え比べる相手に親がいないというのだから、無理もないと理解していただきたいものだ、とかなんとかと言い訳もしておく。)
 先生という職に就いているからかなんなのか土井半助(さん)という人物は幾らか大人びていてそれでいて子供っぽさを何処かに振りかけたような不思議な人である。感情を隠さず、しかしそこらに転がる子供らをいとも簡単にまとめあげてしまう包容力。私には到底真似できまい。子供が嫌いだから。
 小さい頃からの、尊敬の的。

「照れるからさあ、そういうのを本人の目の前で言うのやめてくれない…」

「…何てことのない科白じゃないですか」

「それにしては本音が」

「しかし今日は冷え込みますね」

 露骨に話を反らさないでよね…と言うが、少しも手を休めずテストの採点をしているのでまるで私のことなんかどうでもいいみたいである。会話はしてくれるから器用な人だな、と関心しながらも、そうやってぜんぶ受け止めてくれる土井先生に憧れて仕方がない。ぼんやりした恋情も含まれたそれはどこか甘い菓子にも似ている。(それにしてもいったい全体私はどこからどこまで口に出してしまったのだろうか)(無意識だった。別に聞かれても困らないけれど。)

 そのあとごく自然に私が顔を近付けても何も言わないので、なんだか無性に恥ずかしくなって唇に行くはずだった進路をすこし反れ、まぶたに触れた。






101212/恋い憧れよ青少年

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -