有心論




※この小説はRADWIMPS様の『有心論』という曲を元に書かせていただきました。
自己解釈ですので、ご了承ください。

曲のイメージを崩されるのが嫌という方はブラウザバックでお逃げください。

少々長いです(^p^)







…なんで俺は今人を殺してるの。
なんで人はこうも簡単に死んでいくの。
なんで俺は今ここに立ってるの。

そんな疑問を言葉にするのが怖くて、俺は感情を消した。

人が嫌い。
でもそれ以上に自分が嫌い。
俺に生きてる意味ってあるのかな。

答えは"ない"とわかってるのに誰かに問いかけてみる。

…本当は自分が一番わかってるんだ。
その疑問の答えを。









そんなある日、君は突然現れた。




「ねえ、なにしてるの?」




木の上で昼寝をしていたら突然声をかけられた。
その優しい声が俺に向けられてるなんて思ってもいなくて…




「……」
「ねえ」
「……」
「ねえってば」
「…え、俺様?」
「君以外に誰がいるの?」




綺麗に笑う子だな。
それが彼女の第一印象だった。




「私、名前っていうの!君は?」
「……」
「?」
「…名乗りたくない」




俺の名前を聞いただけでみんな逃げていくから。
この歳でもう人殺しなんかしてたらそりゃ有名にもなるし、
自分から近寄ろうなんて馬鹿なことは思わない。




「そっか、名乗りたくないのか」
「……」
「ねえ、君いつも一人よね?」
「……」
「寂しくないの?」
「……別に」
「私が友達になってあげようか」
「――…いらない!




思っていたより大きな声がでてびっくりした。
でもそれ以上に一瞬でも嬉しいと思ってしまった自分に驚いた。
友達なんかいらないと思っていたはずなのに。

…どうせこの子だって俺の名前聞いたら逃げ出すに決まってる。
俺のことを拒むに決まってる。

今までだってそうだ。
友達だと言った奴らはみんな俺の正体を知ると
怯えた目か軽蔑したような目をして、俺を恐れて、憎んで、
そして逃げ出すんだ。


だから俺は……、




「…もう、ほっといてよ」
「え?」
「俺の名は猿飛佐助。
名前くらいは聞いたことあるでしょ」
「……」
「俺は、人を殺せる」




だから、俺から拒むんだ。

誰もいらない。
どうせいつか嫌われるなら、最初から近づかせなければいい。




「殺されたくなかったらさっさと――…」
「知ってたよ」
「…え?」
「君が"猿飛佐助"だってこと、知ってたよ」




予想外の返答だった。
そう言う彼女の瞳は真っ直ぐで、嘘をついているようには見えなかった。




「…知ってたんなら、なんで話しかけたの」
「誰が話しかけちゃだめなんて言ったの?」
「俺様が、怖くないの?」
「全然」
「今まで何人もの人の命を奪ってきたんだよ?」
「知らないよ、そんなの」




そう言うと少女は自分の胸に手を当てた。
心臓に…心に手を当てて言った。




「私は君に話しかけてるの。
人を殺しただとか"猿飛佐助"だとか関係ない。
私は君と話したいの」
「!」




それはまるで俺の心に話しかけてるようで。

初めてだった。
俺を俺として見てくれる人は。




「何回だって言うよ。
私とお友達になってください」
「……っ」




拒んでも拒んでも、彼女の言葉が俺の中に入ってくる。
俺は無意識に探していたんだ。
こうやって俺を見てくれる人を。
求めていたんだ。
俺を愛してくれる人を。

…でも、やっぱりだめなんだ。




「俺には、愛される資格がない」
「……」
「だから、もう俺には――」
「ねえ、なんでそんなに自分を嫌うの?」
「え…」
「なんで自分を愛せないの?なんで自分を傷つけるの?なんで自分に嘘をつくの?」
「傷つける?嘘を、つく?」
「"愛される資格がない"ってことは、愛されたいってことだよね?」
「!」
「人ってね、愛せばその分自分のことも愛してくれるんだよ。

お願いだから、人を愛してよ。

お願いだから…



自分を愛してよ」




いつの間にか彼女の大きな目にはたくさんの水が溜まっていた。
そして溢れるようにボロボロと大粒の雫がこぼれ落ちた。
俺はそれがなんなのかわからなかったけど、
慌てて木から飛びおりて彼女の元に駆け寄った。
少女は思っていたより小さくて、白くて、細かった。
あの言葉の力強さからは想像もできないくらい。

そうしている間にもこぼれ落ちるそれは止まらない。
俺はなぜかそれを綺麗だと思ってしまった。




「えっと…
ありが、とう」




精一杯の俺の気持ち。
"ありがとう"なんて、初めて言った。
彼女の目から水滴が止まった。
そしてまた綺麗な笑顔で言うんだ。




「やっと、笑った」




俺は、笑ったのか。
今まで笑ったことなんかない俺が。

なんだろう。
この頬を伝う温かいものはなんだろう。
さっきまで彼女が流していたものと同じだろうか。
彼女のように綺麗なものがそこにはあるのだろうか。


その"温かいもの"はしばらく止まることはなかった。











「佐助!」
「なあに名前?」




あれから幾月か経ち、俺たちは"友達"になった。
名前といると自分が綺麗になったような気がする。
戦場にいるときとは違う自分になれる。


今日も名前は綺麗な笑顔で突拍子もないことを言った。




「今日はね、私の友達を連れてきたの!」
「!?」




一瞬にして黒いものが俺の心を覆い尽くした。
名前以外の人間がここに来るのは初めてだった。




「ちょ…、なにしてんの?」
「なにって、そのまんまだよ?」
「…無理だよ、みんな逃げるよ俺様を見たら」
「まだ怖いの?拒まれるのが」
「っ…」
「大丈夫だよ。今の佐助なら、大丈夫」

「あの……」




名前の後ろから恐る恐るという言葉がぴったりの声がした。
同じくらいの歳の男の子が二人。
名前の後ろから様子を窺っている。




「この子たちね、佐助の友達になりたいんだって」
「…え!?」




今日は予想外なことがよく起こる。
そんな子が名前以外にもいるなんて思ってもいなかった。




「俺で…いいの?」
「佐助"で"いいんじゃなくて、佐助"が"いいんだよ」
「……うん」




なんで名前の言葉はこんなにも俺の心を温かくさせるんだろう。
それを聞いただけで、少し自分に自信が持てた。




「あ、あのね!木登り、教えて欲しい!」
「え、木登り?」
「いっつも高い木の上にいるだろ?」
「かっけえなって二人でよく話してたんだよ!」
「かっけえ?俺が?」




確かに今日も高い木の上にいた。
でもそれは人除けのためだ。
人に見つからないように、できるだけ高いところにいたかっただけだ。
それをかっこいいと思われてるとは思ってもいなかった。




「木登りくらい、全然いいけど…」
「やった!」

「おーい、なにしてんだ?」

「!」
「木登り教えてもらうんだ!」
「え、"猿飛佐助"に!?」
「うん!」
「ちょ…、あんま他の子には…」
「いいな、俺も混ぜてー!!」
「!?」




てっきりまた怖がられて逃げられるかと思ったのに。
俺が呆然としてると、横にいる名前は当然とでもいいたげな顔をして言った。




「ね、だから言ったでしょ?」
「なにを?」
「"大丈夫"だって」

「あたしたちも混ぜてー!」
「みんなで木登り大会だ!!」
「ねえ、佐助くん早く教えてよー!」
「おれが先だしっ」

「……うん、ホントだ」




自然と頬が緩むのがわかった。
まさか自分がこんなにたくさんの子と遊ぶ日が来るなんて、思ってもいなかった。

…全部、名前のおかげだ。
人を愛すことができるようになったのも、自分を愛すことができるようになったのも、
新しい自分を見つけられたのも。




「ありがと、名前」
「ん?なにが?」
「俺様、名前中毒かも。
名前がいないとダメかも」
「…なに言ってんの」




そう言って笑った名前の顔は少し悲しそうだった。
なんでそんな顔をするのか、その時の俺は気にもとめていなかった。











そんなある日、君は突然いなくなった。





「佐助くんっ」

「え、どうしたの?そんなに慌てて…」




夕方、名前の友達の女の子が走って俺の元に来た。
名前の姿は、ない。

嫌な予感がした。




「名前ちゃんがっ…!」
「…名前が?」

「名前ちゃんが、




死んだの……っ」



「え?」


「名前ちゃん元々病弱で…」





頭の中が真っ白になった。

その後女の子がなにを話してたのかわからない。
ただわかるのは、長い時間立ち尽くしていたってことだけだった。

気づいたときには日は沈んで空に月が浮かんでいた。




『もう佐助は一人じゃないよ』




彼女はそう言って笑った。
俺を一人にはしないって言った。
俺が一人で泣かないように、
俺が一人で死のうとしないように、
私がずっと一緒にいるって言った。
…本当に、ずっと一緒にいてくれた。
泣きたい夜も、人を殺した次の日も、名前はずっと一緒にいてくれた。

ねえ、じゃあ今来てよ。
泣きたいよ。
死にたいよ。
だから、お願いだからいつもみたいに来て笑ってよ。


そう望んでも、やっぱり君は現れなくて。




「……っ」




泣きたいのに、泣けなかった。
なにも感じない。
ただ無機質に息をしているだけ。

まるで名前に会う前の自分に戻ったようだった。

…いや、これが本当の自分だ。
名前と出会って、少し変われたように思えたけど、
なにも変わってない。
名前がいなきゃ、変われない。


俺を変えた君は、もういない。


もう人は愛せない。
名前がいない世界も愛せない。
もう自分を…
愛することができない。

それと同時に息を止めた。
俺に生きてる意味なんてない。
とっくにわかっていたはずなのに。

目を閉じた。
真っ暗でなにも見えない。
これからはずっとこの中だ。

…そう思っていたのに。




『佐助!』

「!」




そこには君の笑顔があった。
暗闇の中眩しく光っているそれは俺の心の中にあったもので。
光は一気に溢れ出した。
全部君からもらったものだった。




「………。
ごめん、名前。


…ありがと」




俺は息をした。
今度はちゃんと、心があった。
君がくれた心がそこにはあった。



君はいつもここにいた。
これまでも、これからも。
ずっと俺の心の中にいるから。

だから、大丈夫。
また人を、自分を、愛せるよ。

生きるよ。




有心論

("今日も生きて"と君が愛を送るから)



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だいぶ長くなってしまいました(´・ω・`)
この曲大好きです!
RADWIMPS大好きです!
知らない方も、これを見て聴きたいと思ってくださればすごく嬉しいです!

少し(だいぶ)歌詞と違う部分がありましたが、そこはまあ…多めに(^p^)←


御拝読感謝!
20120910 どんぐり





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