仲直りしよう。




妻と喧嘩をした。

本当に些細なことで、原因は覚えていないけど
名前をとても怒らせて、傷つけてしまった。






「お先でーす」
「なんだ猿飛、今日はやけに早いな」
「いやあ、これが家で待ってるんでね☆」




そう言って小指を立てると、先輩は「むかつくなあ」と呟いて俺の尻に蹴りを入れてきた。

…アイツは遅く帰るのを嫌うから、今日くらいは早く帰ってやるんだ。




「そうだ、ケーキでも買ってこうかな」




あからさまなご機嫌とりでもいい。
名前の好きなフルーツタルトを買って帰ろう。
ケーキ片手にちゃんと俺から謝るから。

だから、


仲直りしよう。










「ん、雨だ」




ケーキ屋からでると、雨がいつの間にか降り出していた。
運が悪いな…。
俺は濡れないように小走りで家に向かった。









「ただいまー」




家に帰ると、鍵は開いていたのに部屋は真っ暗だった。
いつもならリビングで名前が待ってるのに、今日はいない。




「名前?いないの?」




いくら呼びかけても返事はない。
玄関を見ると、名前がいつも履いている靴と傘が二本なかった。
アイツは雨の日に外には極力でたがらないのに…。





♪〜♪〜





突然、誰もいない部屋に電話の音が鳴り響いた。

…嫌な予感がした。





「…はい」
「あ、猿飛名前さんのご家族の方ですか?」
「そう、ですが…」




喉が渇いてうまく声がでない。
心臓が異様に早く動いている。

なんだ。
誰だ。

聞いたことのない男の声。
胸のモヤモヤは大きくなる。

男は変わらない声色で続けた。















「猿飛名前さんが、交通事故に遭われました」















嫌な予感は的中してしまった。

頭の中が真っ白になって、電話を持つ手が震えた。
男の声が遠のいていく。






「今は○×病院で…」
「すぐ行きます」







俺は男の言葉を最後まで聞かず
着替えもしないで家を飛び出した。














「救急車で病院に運び込まれたときにはもう息はなく…」






俺が病院に着くと、医師らしき人が説明してくれた。
目の前には顔に白い布をかぶせられた…







「名前」








俺は信じられなくて最愛の人の名前を呼んだ。
返事をしてくれるまで呼んでやろうかと思った。








交通事故の起こった場所は俺の会社の近くだった。
名前が横断歩道を渡っていると、雨で滑った車に突っ込まれたらしい。






傘を二つ渡された。
折れてしまっていたけど、片方は俺のものだった。
名前が持っていたものだと先生は言っていた。
それを渡された瞬間、なんで名前が雨の日に外にでたのかがわかって、
涙が溢れて止まらなかった。





「っ…なんでだよ」





名前の好きなフルーツタルトも買った。
名前のために仕事だって早く終わらせた。
ちゃんと謝るし、「愛してる」って言葉だってお前が望むなら少し照れくさいけど言ってやる。




だから、目を開けてよ。







「…ごめん」








その言葉はもう君には遠すぎるとわかっていたけど、呟いた。






ごめん。
本当にごめん。
守れなくてごめん。






ただひたすら、君に届くまで。




仲直りしよう。

(それはもう叶わないことで)



+--+--+--+--+--+--+--+


これはどんぐりの若干の実話です。
いや、もちろん彼氏ではないですが(^p^)
やっぱり後悔って嫌だなと思いました。
今でも後悔しまくりですが。

御拝読感謝!
20120626 どんぐり





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