貴方の匂いに包まれて
「……いい天気だな」
土方十四郎はタバコをふかせながら空を見上げた。
今日は仕事も少ないしゆっくりできそうだ。
そんなことを考えていると、突然廊下から騒がしい声がした。
「やーい、追いついてみろーい!」
ドタドタドタドタ
「ちょっ…名前ちゃん!
…って、ふくちょ、!?
す、す、すみませんんん!」
「ん?ふくちょ?」
「…おい、覚悟はいいか?」
「あ゛」
*
振り返ると、鬼がいました。
「またてめェか、名前」
「…すみません」
「鬼ごとなんて今時ガキでもやらねえぞ」
「いえ、チビッコがこの間やってるのを見かけました」
「…あ?」
「ごめんなさい」
廊下で鬼ごとやってたのがバレて、只今鬼…副長の部屋で絶賛正座中。
副長の部屋に来るのはこれで5回目だ。
もちろん説教で。
「で、一緒になって馬鹿やってたのは誰だ」
「いえ、私は一人で走ってました」
「庇うか?お前を置いて逃げた奴らだぞ?」
いや、そうは言っても若干無理矢理参加させたようなもんですから。
それで怒られるなんて申しわけなさすぎる。
「まあそいつらの分までお前が説教うけるならいいが…」
「山崎と田中とゴンザレスです」
「…あとで呼んでこい」
「あ、じゃあ今…」
「今は説教中だ」
「ですよねー…」
説教から逃れられる方法はない。
ため息をつきそうになったとき、
同じように副長がため息をついた。
「あれ、副長お疲れですか」
「…誰のせいだと思ってんだ」
「万事屋さんあたりですかね」
「ちげえよ」
「あ、じゃあ沖田隊長ですか?」
「…お前、それ素か?」
「え、違うんですか!?」
「……。はあ」
「え、なんなんですか」
「…説教する気も失せる」
副長はそう言うと、またため息をついた。
…相当疲れてるんだな。
「あの…」
「頼むから、大人しくしてろ」
「え?」
「お前がなんかやらかすと、俺が毎回説教しなきゃならねえんだよ」
「あ、なら名案が!」
「…あ?」
「説教しなきゃいいんですよ!」
「お前が騒がなきゃいいんだよ!」
…ったく、本当調子狂うな。
そう言いながら副長は煙草をくわえた。
「あ、副長その煙草新し…ぅ…ぶぇくしょーい!!」
「…アホかお前」
「アホってなんですか!私は副長のささやかな変化…も…はくしょーい!!」
「おい、大丈夫か?」
あ、やばい。
さっき全速力で走ったから汗が冷えた。
見つからないように少し身震いしたけど、副長はそれを見逃さなかった。
「…ホントアホだな、お前」
そう呟いて、自分の隊服を脱いで私に投げてきた。
「…え」
「着てろ」
「や、でも副長が…」
「俺はお前みたいに走って汗かいてねえから大丈夫だ」
「う…」
副長には全てバレているようで、やっぱり呆れたようにため息をつかれた。
でも、それをわかった上で馬鹿な私に隊服を渡してくれる副長が、本当は優しいことを私は知ってる。
「あ、りがとうございます…」
「おう」
「…土方さん、ちょっと」
「誰だ?」
突然の訪問者に、副長がその場を離れた。
部屋に一人残される。
私はお言葉に甘えて副長の隊服を羽織った。
…あ、これ、副長の匂いする。
煙草とマヨネーズと、その中にほんのり香る清潔な副長の匂い。
なぜかすごく安心できた。
*
「なんだ、いつもなら俺がいなくなった瞬間逃げるのに今日は逃げなかったのか」
「……」
「?おい」
「……スー…」
「…名前?」
「スー…スー…」
「まじかよ…」
この状況で寝るか、普通。
そう文句を言いながらも、土方は名前を起こそうとはしなかった。
「はあ…。
いつもこんくらい大人しかったらな」
そう言う土方の顔は、もう鬼の副長の顔ではなかった。
貴方の匂いに包まれて
(爆睡するくらい、安心できる貴方の隣)
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あー、土方さん口調迷子りました。
今回主人公だいぶお馬鹿ですね(^p^)
この後山崎たちは主人公の代わりにこってり説教されました。
ちなみに田中とゴンザレスというのは、どんぐりが適当に考えたキャラです。
御拝読感謝!
20111108 どんぐり