ある晴れた日、ごりえちゃんと一緒に体術の稽古をしていた。ごりえちゃんはその可愛らしい姿とはうってかわって体術や武器の扱いなども得意な才色兼備だった。神様は二物を与えず何ていうけれど、彼女は何でもできて、誰に大しても優しくて謙虚で、本当に素晴らしい人だと思う。
ここに二物も三物も与えられた人がいるのだ。恋愛感情は勿論だが尊敬もするし憧れもする。彼女は忍としてもとても素晴らしくて見習うところは沢山あるから、こうして一緒に鍛練すると共に心の距離も縮めばいいな…なんて下心悟られてはいけないのだけれど。

少し休憩しようか。自分からそう声をかけた。今日は日差しが特に強くて何時もよりも体力の消耗が激しいし、お互いに汗の量もすごい。こまめに休まなかったら熱中症になる可能性もある。倒れてしまっては本末転倒、そうならないためには自分自身を知ることも必要と何度も何度もいろんな人からいわれてきた。
そのお陰もあって無理をすることと、頑張ることの区別をつけれるようになってきたわけだが、正直なところもう少し体力を伸ばしたいというのは常日頃から思っている。まぁ体力に関してはいくらあっても足りないという叶うことのない欲望なのだが。

日陰になっている軒下へ行こうと歩いているとき何かに躓いてしまいそのまま前にいるごりえちゃんを巻き込んで倒れてしまった。普段だったらこんなこと無かったのに、思っていたよりも体力が減っていたのかもしれない。
ごめん!!と必死に謝りながら起き上がろうとしたときに気づいてしまった。

今の状況、完全にごりえを組み敷いているじゃないか。

これは、まずい。顔から一気に熱と汗が吹き出して、緊張してその体制のまま動けなくなってしまった。どうしよう、早くどかないと。そう思っても腕も足も思うように動いてはくれない。
彼女もその体制に気づいてか、はたまた僕の表情に気づいてしまったのか顔を真っ赤に染めて目を泳がせた。
その恥じらい戸惑う姿に思わず可愛いなんて思ってしまった。だめだ、こんなことしてたら彼女を困らせるし、それに自分の自制だってこのままもってくれるのかどうか。

それでも動けずにいたとき近くで「きゃあああああああああああああああああああああ」という悲鳴が聞こえた。
お互いに魔法からとけたかのように体の自由が戻り我に返った。その瞬間自分の体が空中に浮き、物凄い早さで空をかけていることに気づいた。
あれ?おかしいな、さっきまでごりえちゃんが目の前にいて…。状況を整理する暇もなく自分の体は木に落下しながら激突し、あまりの衝撃に本当に体を動かすことができなくなってしまった。というかこれ絶対どこかの骨が折れてる。痛い。

ここがどこの森で学園からどれだけはなれていて、僕の体はどれだけ動かせて、ごりえちゃんはどこへいって、どんなことを考えているんだろう。
状況整理が一番大事なときだっていうのに先程の事が脳裏をちらついて離れない。
こんなことじゃ忍者失格だ。

初めて彼女とであったとき、自分は情けないけれどごりえちゃんに命を救われた。その物怖じしない立ち姿と不安を感じさせない強さに度肝を抜かれた。かっこいい、すごい。
そんなことよりもまず“僕もこうなりたい”と思ってしまった。
そのあとのギャップのある彼女の弱々しい性格と表情に僕と同じだということに気づかされた。同じだし、立派な女の子だとも。
君だって怖いだろうに、それなのに身を呈して助けてくれる、そんな彼女に恋に落ちないはずもなく…。

ごりえちゃんよりも強くてかっこよくて、頼れるようなそんな忍者になろうと。あの時そう誓ったのに全然成長できていない自分が恥ずかしかった。
どうにかして彼女のもとに戻らないと、そして謝らなきゃ。
体をもぞもぞと動かし、腰と左足を痛めたことを確認。這いつくばって近くの木までいき丈夫な枝集める。それらを頭巾で痛めたところにあてがって結んで即席の副木にした。

よし、これでどうにか動こう。そう立ち上がろうとしたその時何かの気配がした。
辺りを見渡し息を潜めていると黒い大きな影がゆっくりとこちらに近づいてきた。そう、熊だ。あの時と同じように、熊がこちらにのしのしと近づいてきた。
まずい。こちらは動くことなんてできないのに。気が立っているようではないが、相手は野生の熊。いつどんな行動をしてくるか予想なんてできやしない。

どうしよう。
どうしたらいい。

このまま僕に興味を無くして去ってくれることを願うばかりだが、もしかしたら体のどこかからか出血がしているかもしれない。もしかしたら人を食べなれている熊かもしれない。そんな悪い想像ばかりが浮かんできて、冷静さを取り戻せなかった。
その間もお互いの距離はどんどん縮まっていく。

もう目の前に熊が迫ったときだった。なにかが飛んできて熊に直撃し、その威力でか土煙が舞った。

「不破くん!」

土煙から彼女が、普段なら出さないであろう大声でこちらにかけてきた。
何でこんなとこにとか、また#ごりえ#ちゃんに助けられたのかな?とかそんなことよりもまずまた会えた、と安堵した。

「大丈夫?!どこか怪我してるよね、ごめんなさい、私…いきなり“気”を撃ち込んじゃうなんて、本当にごめんなさい!」

必死に謝りながら大粒の涙を流している彼女はやっぱり可愛くて、優しくて……

「好きだなぁ」
「え」
「僕、ごりえちゃんが好きだ。こんな時に言うことじゃないし、忍者を目指していちゃこんな感情も持っちゃいけないんだけど、でも……好き、好きだよ」
「あの、えっと…」

いきなりの事にさっきのハキハキとした態度から何時もの恥ずかしそうなもじもじとした態度にかわる。顔も林檎のように真っ赤で、くるくるかわる表情に思わず笑ってしまった。

「返事はいらないよ。僕たちは忍者の卵だから気持ちだけ知っていてほしいんだ、君だけに」
「……」
「でも、無事にここを卒業できたときにごりえちゃんの気持ちを知れたら…嬉しいかな」
「…私も、私も不破くんのこと好き」

その言葉に思わず呼吸が止まる。

「最初はその、私なんかと仲良くしてくれる男の子なんて今までいなかったから冷たい態度で当たっちゃったときもあるけど、でも、いつも優しく声をかけてくれて笑いかけてくれて、どんどん貴方のことが好きになってて」
「ほんと?」
「うん。ほ、ほんと…だよ」
「どうしよう」
「え?」
「僕、今最高に幸せだ」

体の痛みなんて何処かへ行ってしまった。
起こしかけてた体をその場に転がし、両手で顔を覆う。だって今同じように真っ赤な顔になっているだろう。そんな顔みられるのは流石に恥ずかしい。
大袈裟だよなんて小さく笑うごりえちゃんが愛おしかった。


20200703
加筆修正済

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