兵助がこの前の実習で追試になったらしい。珍しいこともあるもんだと思っていたけれど、よくよく聞いたら雷蔵が惚れているあのゴリラが一絡みしているらしい。

最近なにかと縁のあるゴリラ。俺もこの前とんでもないところを目撃してしまった。ゴリラがどうとかじゃなくてゴリラの回りにいたというか。とにかく俺一人では抱えきれないことなので、誰かにこの重みを共有してほしくて今回の集まりが出来たわけだ。よろしく頼む。
まって、お願い、聞いて三郎。勘ちゃんと兵助もいるけどさ、だめ、お前には絶対聞いてほしいんだって。雷蔵にも関係あることだから!!!!
よし。じゃあ聞いてくれ。それは、一昨日のことなんだけど―――。



…………


生物委員会で動物たちの小屋を掃除していたときだった。すぐ近くで善法寺先輩が何やら険しい顔でどこかを注視していた。いつになく真剣で、微妙に殺気だってもいるしとにかく普通じゃない感じがして、孫兵に一年と固まって掃除をしてくれと頼んで善法寺先輩に駆け寄った。
先輩の近くまで行き、小声で「どうしたんですか!?」と聞いたが返事は帰ってこなかった。俺も目線の先のものを確認するべきだと思って、向こうの方を見たんだ。
何があったとおもう?
雷蔵とゴリラがイチャイチャしてた。



「はぁ!!!?」
「ぐえへぇ」
「三郎落ち着いて、八左ヱ門の首しまってるから、続き聞かなきゃ」
「ちっ」
「げほげほ、死ぬ」
「水を飲め」
「さ、さんきゅ兵助」




語弊なあったかもな。良い雰囲気で話をしてたんだよ。
まぁそこは問題のあるとこではなくて、なんで善法寺先輩があの二人を見てそんな雰囲気になっていたか、だ。
まさか本当にゴリラは何処かの城のスパイだったのか!?とか思ってたら違った。
「くそ…ごりえちゃんと話すなんて…許さない、許さない…」
「は?」
「ごりえちゃんは僕のお嫁さんになるのに、雷蔵めっ、いつのまにあんなに仲良く……ブツブツブツ」

やばい。
一瞬で悟ってしまった。善法寺先輩は狂っている!!!
まってくれ、ゴリラが善法寺先輩のお嫁さんになる??二人は既に恋仲だった?いや。善法寺先輩のの雰囲気からして絶対違う。
だってこの雰囲気、俺知ってる!あれは実習の時にみた嫉妬に狂う女の姿だった。親指の爪の先を歯でギリギリ割れるくらい噛み締め、負のオーラが背中から悶々とでていた。

この場から直ぐにはなれないとダメだ!と俺の第六感が警告していた。

「あ、じゃ、じゃあ俺委員会中なんで戻りますねー…」
「竹谷」
「は、はいぃ!!」

ダラダラと何処からでているからも分からない汗が滝のように溢れ出す。
ドッドッドッと太鼓を間近で聞いているかのような音が俺の体内から聞こえてくる。まずい、これはかなりまずい!

「雷蔵は何処までいっている」
「は、はい?」
「雷蔵は!ごりえちゃんと!!何処まで進んでるの!?」(小声)
「はあ?!いや、しらな」
「雷蔵には負けられないんだ!ごりえちゃんは、あんなに可愛くて、健やかで、強かで、でもって超絶優しくて聖母のようで、僕にはあの子しかいないんだよ!!!」(小声)
「いやいやいや、わかりましたけど、本当に俺は知らないですよ!」(小声)
「くっ!!僕は…僕は」

いや、そんなに好きなら直接アピールとかすればいいのに。善法寺先輩って顔も良いし、優しいし気遣いもできるから、モテるっちゃあモテると思うのに。(不運に関しては今回はつっこまない)

「いやだ、雷蔵と距離が近いだけでも胸がいたい。つらい、つらいよ……およよよ……」
「えー……」
「なんで僕じゃなくて雷蔵なんだ。僕だって優しいって評判だし、ルックスだって悪くないと思うんだ。なんでだと思う竹谷!!」
「え、ええ?俺?!」

いや何で俺に聞いた。



「それだけゴリラのことが好きなんだな善法寺先輩」
「意外も意外すぎて勘右衛門が笑い死にしそうだ」
「むりっ」
「はっ、善法寺先輩とゴリラがくっつけば万々歳では、いや!それだと雷蔵が落ち込んでしまう。うー、雷蔵の悲しむ顔はみたくないし、かといってこのチャンスをむげにするわけにも…」
「(おほー、こっちもこっちでめんどくさかった)」
「で、八左ヱ門はなんて返したんだ?」
「あ、おおそれが」



「えとごりえさんはまだ善法寺先輩のよさに気づけてない…とか?」
「で?」
「ええ、えっと、だからその、もっと押せ押せでいけば向こうも段々善法寺先輩に目が向くし、漢らしさを見せるのはやっぱりプラスになるんじゃないんですかね…?」

そのまま険しい顔をして黙りこんでしまった。こ、こええええ。こええよ。正直善法寺先輩は癖の強すぎる六年の中でも、唯一といって良いほどの良心だと思っていた。なのにこんな一面を知ってしまってもう恐怖対象の一人だよおい。

「竹谷」
「は、はいぃ!」
「確かに僕は少し漢らしさとか自己アピールが足りてなかったかもしれない」
「は、はぁ」
「僕は絶対あの子と夫婦になって見せる。ありがとう竹谷」
「うす」



…………


それからの後日談というかおまけなんだが、廊下を歩いていて、何気なく外に目を向けたら善法寺先輩がゴリラに壁ドンかましてた。

ただ、ゴリラのほうが身長もでかいしがたいもいいから、なんか壁ドンっていうか間違ってゴリラのとこに突っ込んでしまったみたいな状態だった。



20190407
加筆修正済

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